元小結・遠藤「やり切る、抗う心」を語る

北陣 聖大 元小結・遠藤
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メディアを避けた理由、けがとの戦い……独占インタビュー

(取材・構成 田井弘幸)

 北陣親方(35)=元小結・遠藤=は、史上屈指の花形力士として、現在の大相撲人気の礎を築いた立役者だ。甘いマスクに加えて、均整の取れた体に備えた巧みな技術は土俵に映え、平成から令和へと、幕内の第一線で活躍し続けた。その一方で、両膝をはじめ全身に数々のけがを抱え、約12年半に及ぶ力士人生は山あり谷ありだった。

 現役時代の大半はメディアに対して多くを語らず、華やかなたたずまいの内側はベールに包まれていた。長く沈黙を続けた真相や、現在の心境、そして少年時代のこと……。故郷を襲った能登半島地震発生から2年が経った初場所前の1月初旬、両国国技館で胸の内を語ってもらった。

 ――引退して一場所を終え、年が明けた気持ちはいかがですか。

 北陣 土俵に上がれるかどうか、相撲を取れるかどうかと、ずっと抱えていた不安な気持ちはなくなり、ほっとした気持ちです。それと同時にたくさんの方々に支えられて現役生活を過ごしてきたことに、まずは改めて感謝したいです。「お疲れさま。ありがとう」とお声がけいただくことも多く、ありがたくてたまりません。

北陣親方 Ⓒ文藝春秋

 ――両膝や両足首など、数多くのけがの苦しみから解放されたんですね。今年のお正月はどう過ごしましたか。

 北陣 久しぶりに年末年始というものを感じました。休める日数は同じですが、心の持ちようが全く違いました。現役の頃は12月29日あたりまで稽古をして、年明けは3日から始まる感じでした。この空いた4、5日は大きかったですね。年末年始をどう乗り切るか。あがいてもどうにもならないし、それこそ本当に神頼みです。自分にとってお正月はきらびやかなものではなく、初場所に向けて自分自身と向き合い、今思えばずっと気が張っていて、焦っていました。

遠藤フィーバーへの思い

 北陣親方は1990年10月19日生まれ。石川県鳳珠郡穴水町出身で日本大学4年時にアマチュア横綱のタイトルを獲得し、追手風部屋に入門した。2013年春場所に幕下十枚目格付け出し(アマチュア相撲優秀者の優遇制度。番付上位からスタートできる)でデビューすると、四場所目に新入幕。端正な顔立ちと颯爽とした姿で一躍人気者となり、人気が陰っていた角界に「遠藤フィーバー」を巻き起こした。

 左四つでの寄り、右上手出し投げ、鮮やかな差し手の巻き替えで小結に五場所在位。三賞は殊勲賞1回、敢闘賞1回、技能賞4回を記録し、金星は7個獲得。幕内を通算69場所務め、幕下に陥落した昨年11月の九州場所前に現役を引退した。

 ――大相撲人気が低迷した時期に救世主として出現した「遠藤」には、土俵を去る最後まで大歓声が続きました。

 北陣 歓声や拍手をたくさんいただきました。ありがたいことでしたし、現役力士として幸せな人生だったなと思います。特に勝った後の、あの歓声は今でも鮮明に覚えています。生涯忘れることはありません。どの取組も、勝った時にいただいた歓声は鳥肌の立つような感覚がありました。

 先ほども言った初場所に限らず、ずっと不安との闘いでした。でもそこで大きな声援が何度も背中を押してくれました。そして、そのために勝つんだという気持ちになれる大きな原動力の一つでした。

 ――「遠藤フィーバー」は重荷には感じませんでしたか。

 北陣 そのように感じていた時期もあったかもしれません。でもそれ以上にたくさんの声援をいただきました。やっぱり「幸せ」という一言以外で例えられませんよね。

現役時代は国技館前に「顔はめパネル」が並んだ(写真は2015年) Ⓒ時事通信社

 ――実際に闘ってきた身として、相撲の醍醐味は何でしょうか。

 北陣 しっかりと白黒が付きますし、勝敗が決まるまでの時間が早いです。もちろん長い相撲もありますが、それはそれでまた醍醐味です。いずれにしても白黒がはっきりしているので、見ているお客さんも本当に分かりやすいと思います。

 九州場所前に引退してからは花道で警備の仕事をしていますが、「お客さんはこのくらいの目線で見ているんだな」と、また違った角度で興味深く大相撲を感じています。現役の間は花道にいても、相撲のことしか考えていませんでしたから、とても新鮮です。

楽しいという感覚はなかった

 日大3年の時に右膝前十字靭帯断裂の重傷を負い、角界入りしてからは、幕内上位に定着しつつあった2015年春場所五日目の松鳳山戦で逆の左膝が同じけがに見舞われた。いずれの怪我も手術を選択せず、後に自らの状態を「翼がない」と表現。忍耐と創意工夫で一日一日を乗り越えてきた。

 ――力士として相撲を取っている時、楽しいという気持ちはありましたか。

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source : 文藝春秋 2026年3月号

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