大相撲を支える“土俵下の力持ち”の手仕事
グラビア記事「土俵を築る」もぜひご覧下さい
中学を卒業した15歳で大相撲界に飛び込み、今年で47年目を迎えます。毎年九月秋場所後に行司や呼出、床山らの昇格人事があるのですが、このたび呼出の最高位である「立呼出(たてよびだし)」となりました。
呼出と言えば、協賛企業の着物に裁着袴(たっつけばかま)を穿き、取組前に「東〜◯◯ ◯◯〜 西〜×× ××〜」と東西力士の名前を呼び上げる姿を大相撲中継などで目にし、思い浮かべる方が多いでしょう。また、「水付け」と言いますが、土俵に上がる関取が力水を付けたり、タオルで汗を拭いたりする際に補助をするのも私たちの仕事。土俵の進行に気を配り、懸賞旗を持って土俵上を回ったりもします。ですが、実はテレビに映る仕事はほんの一部で、呼出には他にもいろいろな役割があります。

そのひとつが土俵を造ることです。これを“土俵築”と呼び、年6回の本場所の土俵はもちろんのこと、45部屋ある各相撲部屋の稽古土俵も、番付発表日までに呼出が集まり造っています。そして、三月大阪場所後の春巡業、七月名古屋場所後の夏巡業、九月秋場所後の秋巡業、十一月九州場所後の冬巡業では、巡業本隊に帯同する呼出とは別動隊の呼出が現地に先乗りし、土俵を造る。終わったら次の巡業地に移動してまた土俵築をする、“旅暮らし”でもあります。
使いまわしはしない
両国国技館の場合、場所中以外は床下に土俵が格納されていて、前の場所で使用した土俵がスイッチひとつでせり上がってくる仕組みになっています(巻頭グラビア参照)。先場所で使用した土俵も、表面を雑巾がけすれば見た目は綺麗になめらかになるので、断髪式など花相撲の場合はそのまま使用することもできます。しかし、本場所で使う土俵は場所ごとに壊して造り直します。土俵の土台となる部分も固めた土でできていて、この部分は数十年のあいだ造り直す必要がない強度になっていますが、土俵表面約15センチと、側面部分の土は必ず本場所前に壊し、新たに土を盛って造り直す。これには、大きな意味があります。
土俵は、力士が相撲を取るだけでなく、神様が宿る場所でもあるのです。本場所の初日前日に行われる「土俵祭」では、土俵に神様をお迎えするため、立行司が祭主となり、脇行司を従えて『方屋開口(かたやかいこう)』という祝詞を奏上し、供物を土俵に埋めて捧げます。「方屋」とは土俵のことで、その口上の中には「清く潔きところに清浄の土を盛り、俵をもって形となすは、五穀成就の祭りごとなり」という一節があります。神様が宿る土俵は清らかでなければならず、決して使いまわすことはできないのです。ちなみに千秋楽には「神送りの儀式」として、神様を天にお返しし、土俵の鎮め物を取り去るので、土俵を壊す時には相撲の神様はいません。
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source : 文藝春秋 2025年12月号 伝統の妙技 「土俵築」 土を叩き固め、神を宿す

