インフレ・消費減税・金利上昇……このままでは危ない
【座談会の主なトピック】
・「恐ろしい敵」ではない。インフレの「最大のメリット」
・「重点投資」有望はコンテンツ分野。だが、17は多すぎる
・消費税だけでなく社会保険料も大事。「国民会議」に期待したい
河野 衆議院の解散総選挙が急転直下で決まりました。現時点で選挙の結果はわかりませんが、すでに高市早苗政権が掲げる「責任ある積極財政」という方針の下で2026年度の予算案や税制改正案が策定されており、与党が過半数を取れば、その経済政策のスピード感は増していくでしょう。
今日は日本経済の現状と課題を踏まえて、高市政権の政策を中心に2026年を展望します。マクロ経済のエコノミストの私と唐鎌さん、そして社会保障が専門の伊藤さん、AI研究の第一人者である松尾さんがいらっしゃるので、幅広い議論になりそうです。
伊藤 第一線で活躍されるメンバーばかりで緊張しています(笑)。
松尾 高市政権が選定した「重点投資対象17分野」の筆頭にAIが選ばれるなど、注目度が高まっているので、長年AI研究に携わっている身としては、議論に加わることができ、嬉しく思っています。
河野 では現状の分析から始めましょう。まず、日本は円安、インフレ、長期金利上昇が収まらず、憂慮すべき段階にあります。
唐鎌 現在の円安局面は2022年の3月に始まり、120円台に入っていきましたから、今年で5年目に突入することになります。当初はアメリカが利上げしている状況でしたので、アメリカが利下げに転じるか、日本が利上げに転じれば、円安は終わる、という予測が大勢を占めていました。しかし、実は円安は対ドルだけでなく、主要通貨全体に対して起きていて、ドルと足並みを揃えて安くなっている。例えば、年始早々に起きたアメリカによるベネズエラ侵攻のようなことがあれば、かつてはドル安円高になるはずが、そうはならなかった。つまり、「ドル安下での円安」がニューノーマルとなっている可能性があります。この状況において円安をいかに是正するか。それが総選挙後の新政権が直面する最大の課題の一つになるでしょう。
積極財政はインフレを助長
河野 一方、インフレ率は現在3%前後。日銀は政策金利を昨年12月に0.5%から0.75%に引き上げましたが、インフレ率に比べれば、まだまだ低い。今、唐鎌さんからドル安円安のニューノーマルに突入しているという指摘がありましたが、この低い実質金利が円安傾向を助長していることは確かでしょう。
高市政権は、原材料の高騰に端を発したコストプッシュ型のインフレだと言い張っていますが、私の認識は異なります。当初はコストプッシュ型だったとしても、すでに国内要因の「ホームメイド・インフレ」に転じている。背景には、2023年の半ば頃から、ほぼ完全雇用=超人手不足となっていることがあります。失業率は、労働需給が均衡している構造的失業率の3%程度を下回る2%台半ばまで低下していて、この状況下で積極財政を続ければ、インフレを退治するどころか、それを助長するだけです。

今回、与党は、食料品の消費税率を2年間に限ってゼロとすることを公約としました。ほぼすべての野党も消費減税を主張しているため、実現の可能性は高いですが、一度始めると、簡単には減税を止められないというのが、これまでの経験です。財源が固まっているわけではないことも心配材料です。そもそも、お金持ちほど、食料品にお金を使うので、本来、サポートすべきでないゆとりのある人が大きな恩恵を得ます。
消費減税を実施した段階では、一時的にインフレ率は低下しますが、元に戻せばインフレ率は再び上がりますし、何より消費が刺激されるため、インフレ圧力は最終的にはより強いものとなります。
それらのことを新政権にはまず肝に銘じてほしいところです。
唐鎌 河野さんの仰る通りかと思います。そもそも「2年間限定」という減税は、事務的負担も踏まえれば相応に重いはずであり、減税効果の減殺も想定されます。恐らく導入され、2年後が迫ってくれば、延長可否を議論する会議体が何らかの形で作られ、傍らで野党が延長を強く訴えるでしょう。その2年間で行われる選挙で与党が勢力を落とそうものなら、もう減税は恒久化まっしぐらではないかと察します。その時の債券・為替市場に与える影響は論じるまでもありません。
松尾 積極財政は政権の考え方ですから、これがしっかりと経済成長につながっていくようにするにはどうすればいいかを考え、実行していく必要がありますし、消費減税はある程度慎重にやったほうが良いと思います。税収を確実に成長につなげられるような道筋を確認し、進めていくということでしょうか。
河野 高止まりしている日本の株価についても少し触れておきます。株高の大きな原因の一つは、企業業績がいいからですが、マクロ経済の成長ペースは緩慢です。企業の海外での儲けが円安で膨らみ、国内では価格引上げも利益につながっています。問題はその利益が十分に家計に還元されていないこと。インフレに賃上げが追いつかないために、実質賃金はむしろ低下しています。要するに高い株価は家計の犠牲の上に成り立っているのです。以前は、コスト転嫁が難しいから、賃上げに躊躇していましたが、企業は値上げの旨味を覚え始め、利益の分配ではなく、値上げを原資に賃上げをするようになっています。これでは、実質賃金は一向に改善しません。

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AIは過剰投資ではない
松尾 企業の好業績に加えて、AIへの期待が世界的な株高を牽引しています。これはバブルなのか否か。読者の関心は、まずはそこにあると思いますので、ここで私の見解を述べておきましょう。
AIに対しては、「過剰投資」という声も聞かれます。確かにごく短期的に見れば、明らかにそうでしょう。AIに大量のデータを学習させればさせるほど、AIの性能が上がる「スケール則」が現段階でも成立しているかは、かなり疑わしくて、すでにデータを増やしても、性能が向上しない局面に入っています。では、なぜAI企業は巨大なデータセンターを作り、膨大な電力を買うのか。それは、優秀な研究者たちが猛烈な勢いで開発を進めているので、今は性能の向上が止まっているように見えても、どこかでブレイクスルーが起こると期待されているからです。その結果としてAGI(汎用人工知能)という一つのゴールに辿り着ければ、その期待利益はとてつもなく巨大です。昨年末にソフトバンクの孫正義さんが「将来、GDPの10%がAIに置き換わる」と発言しましたが、まさにそんな未来が来たら、現段階では過剰投資に見えても、予測されるリターンの大きさと比較すれば、全く過剰とは言えません。
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