国民皆保険 このままではもたない

「なんて便利で安いんだ」外国人学生の絶賛は危機のシグナルだ

伊藤 由希子 慶應義塾大学教授
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「なんて便利で安いんだ」

 日本の大学に奨学金を得て留学している外国人学生は、日本の公的医療保険を決まってそう絶賛する。

 日本国内に3か月以上滞在する者は、誰もが公的医療保険に加入する。国民皆保険制度と呼ばれ、不加入や脱退の自由はないが、健康状態にかかわらず加入でき、医療機関の保険診療を受けられる。留学生の場合、居住する市区町村の国民健康保険に加入するが、奨学金は所得として扱われないので、前年の日本でのアルバイト収入などが少なければ所得税や住民税がかからない低所得世帯と同じ扱いになる。そのため国民健康保険料は減額され、世帯全体で毎月数千円の負担だ。

 月数千円程度の保険料負担でも、保険証一つあれば、大抵は思い立ったその日のうちに診療が受けられる。子どもが蚊に刺された程度でも薬がもらえる。自治体にもよるが学齢期の子の医療費の自己負担分が助成され、無料になるところも多い。頭痛といえば、商店街の中の小さなクリニックでも画像診断が受けられ、腰痛で医師が必要と診断すればマッサージにも保険が適用される。

 日本の公的医療保険の特長は、利用者にとっては「費用を過度に気にせず、全国どの医療機関でも受診できる仕組み」である。そして、医療機関にとっては「目の前の患者の支払能力にかかわらず、確実に費用が支払われる仕組み」である。現行の保険や報酬(診療単価)の仕組みにおいては、利用者は少しでも気になることがあれば、様々な医療機関を受診することができる。医療機関も患者に単価の高いサービスや医薬品を勧めることを躊躇しない。

 この便利さは、外国人留学生だけでなく、日本人もまた日々実感するところである。日本の仕組みは、しばしば「世界に冠たる国民皆保険」とよばれてきた。この表現は、厚生労働省や日本医師会のウェブサイトでも多用されている。

病院の待ち時間が長いのは悩みの種 Ⓒアフロ

 しかし、皆保険は皆負担によって成り立っている。制度を支えるのは国内に暮らし続ける私たちと将来世代に他ならない。短期滞在の留学生ではない私たちは単に「便利で安い」と吞気なことばかり言ってはいられない。

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source : 文藝春秋 2025年10月号

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