トレンドは爆買いから検診へ。その現場を追った
「あなたはどの国の人? ああ、中国人だね。中国人(ヂヨングオレン)、你好你好(ニイハオニイハオ)」
9月7日午前10時40分、都内の診察室。老齢の日本人医師がカタコトの中国語で挨拶すると、痩身の中年男が顔をほころばせた。彼は上海から来た趙一平(ちょういっぺい)氏(仮名、56歳)で、妻とともに検診に訪れた。ここは中堅規模の医療法人が運営する検査専門のセンターで、一般外来患者の診察・治療はおこなわないため、院内はこぢんまりとしている。
趙氏たちは同日朝、検診コーディネーターの車で病院前に送りとどけられ、事前に準備した検便を提出。待合室で看護師の説明を受けていると、センターの事務局長がわざわざ挨拶にやって来た。やがて昼食のメニューを決定してから検査衣に着替え、問診に向かう。当初は「大きな健康上の問題はない」と述べた趙氏だが、日本人医師が些細なことでも伝えてほしいと水を向けると、ひとつひとつ心配事を話しはじめた。
「前立腺がよくないらしい。夜中に尿のためよく目が覚めます」
「首と腰が痛い。特に首がよく張り、仰向けに寝ると痛みます――」
医師がカルテに書き込んでいく。趙氏の言葉を訳すのは、検診のコーディネーターである霓虹医療直通車(ニイホンイーリヤオヂイトンチヤー)(Nihon)の医療通訳者・李長(りちょう)春(しゅん)氏だ。日本国内で医学博士号を取得しており、言葉に淀みがない。
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source : 文藝春秋 2017年12月号