【乳がん】がん家系だからこそ「標準治療」のメッセージ

短期集中連載 前編

梅宮 アンナ タレント・モデル
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■短期集中連載 がんで生まれ変わった10人

・大腸がん「打てば忘れる。でも、消せない不安がある」 原口文仁(元阪神タイガース)
・乳がん「がん家系だからこそ『標準治療』のメッセージ」 梅宮アンナ(タレント)
・胃・食道がん「保釈直後の闘病が『あきらめない』の原点」 鈴木宗男(参議院議員)
・膀胱がん「病と向き合って竹下登の気持ちが分かった」 御厨貴(政治学者)
・大腸・腎臓がん「二度のがん、妻のがん死を経験した専門医の発見」 垣添忠生(日本対がん協会会長)

人間ってちゃんと忘れるようになっているんだな

「私が抗がん剤の治療を終えたのは去年の3月なので、もうあれから1年が経つんですね」

 モデル・タレントの梅宮アンナさん(53)はそう言うと、「そのことをどう受け止めればいいか」というふうに少し考えてから続けた。

「いま、ふと思うのは、やっぱり人間ってちゃんと忘れるようになっているんだな、っていうことかな。治療中は本当にすごく大変だったし、『この苦しさや痛みがいつまで続くの』と思うこともありました。いつも体が薬に攻撃されて、肺炎にもなった。でも、いまあのときのことを思い返すと、それをどうやったらきちんと言葉にできるんだろう、って心許ない気持ちになります」

梅宮アンナ氏 Ⓒ文藝春秋

「元気になったらお願いします」

 そう語る梅宮さんは、2024年に「浸潤性乳がん」のステージ3aと診断されて以来、自身の闘病をリアルタイムで発信し続けてきた。SNSでの発信のみならず、現在はウィッグのプロデュースや乳房切除術後でも着用しやすいブラジャーの開発など、がんとともに生きるための「新しいライフスタイル」の提案を行っている。

「がんと言われたとき、私にはトライしてみたいことがあったんです」と彼女は言う。化学療法の激しい副作用に晒されながらも発信を続けた裏には、ある強い動機があったのだ、と。そのきっかけはがんであることを公表した後、出演予定だった料理番組がキャンセルになったことだった。

「『元気になったら、またよろしくお願いします』と言われたとき、私は本当に傷ついたし、悔しかったんです。自分はただお料理の仕事がやりたかっただけなのに、って。いまの時代、治療をしながらでも仕事はできる。全部が全部ではなくても、やれることはきっとある。私自身、それにトライしてみたかったんですよ」

 梅宮さんががんの診断を受けたのは2年前、2024年7月のことだった。右胸の形の異変に気付き、娘に言われて病院を受診したところ、がん細胞が周囲の組織に広がっている「浸潤性乳がん」と診断を受けた。すでにリンパ節への転移が見られる状況だった。

 しかし、そのときの心境は自分でも驚くほど静かなものだった、と彼女は繰り返し語ってきた。

「『ああ、来る時が来たな』というのが率直な感想でした」

 その冷静さの背景には、自分がいわゆる「がん家系」の中で育ったという環境がある、と彼女は言う。六度のがんで激しい闘病を続けた父・梅宮辰夫さんをはじめ、親戚にもがんを経験した人が多く、「いつか自分もがんになるんだろうな」という予感があったそうだ。

 とくに30代のときから闘病続きで、81歳で亡くなるまでに幾度もの手術や化学療法、さらには人工透析を受けつつ俳優を続けた父・辰夫さんを間近で見てきたことは、彼女の人生観や死生観に大きな影響を与えた。

「忘れられないのは、そのパパが晩年、選挙があったときに『安楽死を認めさせようとしている政治家に投票したい』と言ったことです。あんなにバイタリティに溢れていた人にも、自分から『もういい』と思う瞬間があるんだ、って。生きたいんじゃなくて、生かされるつらさっていうのは、やっぱり経験した人しか分からないんでしょうね」

 そうした思いがあったからだろうか、自分ががんの診断を受けたときも、心に自然と浮かんだのは「それなら、これからどう生きるのか」という問いだった。

 そんななか、治療をスタートさせるにあたり、彼女が一貫してこだわり、発信し続けたのが「標準治療」への徹底した信頼だった。辰夫さんやがんを経験した親族が一様に標準治療を受け、社会復帰をしていく姿をこれまで何度も見てきたからだ。

無数の“善意”が寄せられた

「芸能界で生きていると、病気を公表したとたんに『この水でがんが治った』『特別な治療法がある』みたいな無数の『善意』が寄せられるんです。私のところにも事務所に謎の液体や本、『聴くと治る曲』まで送られてきました。心が弱っているときって、そうしたものが魅力的な救いに見えてしまう。だから、『標準治療以外には頼らない』というメッセージを敢えて強調して発信したんです」

梅宮アンナ氏 Ⓒ文藝春秋

 もう一つ、治療を受ける上で心の拠り所にしたのが、担当医への信頼だった。治療方針の説明を受けた際、「治療しなかったら私は死ぬんですか?」と彼女はたずねた。それに対する次のような答えを聞き、彼女は「このお医者さんを信頼しよう」と心に決めたと振り返る。

「それは神様にしか分からない。でも、治そうという気持ちがある人が治っていくんだよ」

 医療の限界を認めつつも、治療法についてできる限り知ろうとし、患者である自分自身を信じてみてはどうか――ということだ。以後、それは治療を行っていく上での彼女の基本的な姿勢となった。

 ただ、そうして始まった治療の日々の実態は、想像していた以上に過酷なものだったのも確かだ。梅宮さんがまず受けたのは「AC療法」で、アドリアマイシンとシクロホスファミドという2剤を投与する術前化学療法である。2週に一度の投与を計4回、「24時間、最もひどいときの二日酔いがずっと続いている感じ」だったと彼女は表現する。抗がん剤の副作用の強さは人によって異なるが、「私の場合は倦怠感と吐き気が波のように押し寄せ、気力だけで立っているような日々」だった。

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source : 文藝春秋 2026年4月号

genre : ライフ 芸能 ライフスタイル 医療 ヘルス