京都男児殺害事件 現場記者が書けなかったこと

村岡 正浩 週刊文春記者

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メディア、ネット、そして人々はこの事件に熱狂した

〈父親が関与ほのめかす供述〉

 4月15日の午後9時39分。NHKの速報テロップがテレビ画面に流れた瞬間、高揚感と共に安堵感がどっと押し寄せてきた。

 京都府警が安達優季(ゆうき)容疑者(37)の逮捕を正式に発表したのは、日付が変わった16日の深夜1時40分。この報せを受けて更なる“報道合戦”が始まる――私は戦地に赴くような気持ちで翌朝、品川から京都行きの新幹線に飛び乗った。

安達優季容疑者

 現場には、ほぼ全てのメディアが集結し、ワイドショーや情報番組では犯人の逮捕前から連日特集が組まれていた。事件に関連するネット記事は軒並みPVが増え、週刊誌も売れた。一体、この事件は数多ある他の事件と何が違ったのだろうか。

 約1カ月に渡って取材競争に明け暮れていた私は“特ダネ”を取ることに必死で、事件を俯瞰する余裕などなかった。現場では何が起きていたのか。あの時、書けなかった話と思いを綴ってみたい。

  ◇

「週刊朝日」、「週刊新潮」、「週刊文春」と媒体を変えながら、15年近く週刊誌記者を続けてきた私は、全国で起きるさまざまな事件を取材してきた。北は北海道から南は沖縄まで、文字通り日本列島を縦断し、その週に起きた事件を1週間かけて取材し、記事を書いていく。

 とはいえ、テレビや新聞で既に報じられていることをなぞっても意味がない。いかに独自の話が取れるか。そこが週刊誌の勝負所だ。

 関係者への張り込みや直撃はもちろん、重要人物を他社に接触させないために囲い込んだこともある。それが週刊誌の事件取材なのだ。

事件取材の現在

 事件が起きるたびにマスコミが勢揃いし、取材競争が激化。現場はペンペン草も生えないほどに荒らされ、ほとぼりが冷めると一斉に去っていく。過剰とも思える取材合戦はメディアスクラムを生み、世間の批判にも晒されてきた。

 ところが、近年こうした取材現場は変わりつつある。マスコミが事件に人を割かなくなってきたのだ。

 なにせ事件取材は金がかかる。地方で事件が起きれば、現場までの交通費や宿泊費に加え、関係者を探して夜の街で散財しなければならないこともざらにある。テレビ、新聞、雑誌の体力が落ちる中、一時はウェブ媒体がその穴を埋めたが、広告単価の下落に伴いPV収入も急降下。現場取材をするウェブ媒体もほぼなくなり、安易なコタツ記事ばかりが量産されているのが現実だ。

 事件発生直後、電車や飛行機を乗り継ぎ、やっとの思いで現場に到着しても、地元紙の影すらなく、たった一人で現場を訪ね歩く――そんなことも珍しくなくなった。

 だが、京都府南丹市で起きた「11歳男児行方不明事件」は違っていた。3月23日に結希(ゆき)くんが失踪して以来、報道が続き、その量は日を追うごとに増えていった。まるで昭和や平成にタイムスリップしたかのようなメディアスクラムが連日続いたのだ。

 なぜこの事件にメディアは飛びつき、人々は熱狂したのだろうか。

 一番の“燃料”となったのが、逮捕までにかかった「時間」だ。

 私が初めて南丹市の現場に入ったのは4月3日。結希くんが行方不明になってから既に11日が経っており、その5日前には市内の峠道からリュックが発見されていた。

 この時、既に結希くんの自宅敷地前ではテレビ局と思しきワゴン車やSUVが車列をなしていた。

「警察は結希くんの父親を犯人だと見ており、近く逮捕される」

 カメラマンたちが父親逮捕に備えて、自宅からの出入りを隠し撮りすることに精を出していたのだ。

 ところが、この予測は外れた。

 行方不明からリュック発見までが6日。その日から別の場所で靴が見つかるまでは2週間。犯人逮捕がその3日後なので、行方不明の日から数えると、実に逮捕まで23日間も要していることになる。

「謎」が次々と浮上

 この膠着状態が、人々の好奇心に火をつけていった。日に日に報道陣の数は増えていき、当初は在阪メディアの記者ばかりだった現場は、いつの間にか東京から来た顔見知りの記者たちが闊歩するようになっていく。そして、その間に各メディアは大量の記事を出稿。それが新たな燃料となっていった。

 東京から来た写真週刊誌の記者は、溜め息交じりにこう言っていた。

「この事件はとにかく“数字”を持っていて、編集部から『なんでもいいから記事を出してくれ』って言われているんです」

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source : 文藝春秋 2026年7月号

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