国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです
「押しも押されもせぬ大スター」のように「押しも押されもせぬ」という言い方があります。こっちから押すことも、向こうから押すこともない、びくともしない、という意味です。
これをしばしば「押しも押されぬ」と言うことがあります。雑誌『言語生活』1956年5月号は〈押しも押されぬ地位〉という例を引いて〈ことばの慣用を平気でこわすのも戦後派の文章の特長か〉と批判しています。今の新聞などでも、この形は避けられます。
でも、はたして「押しも押されぬ」は慣用を壊した語形でしょうか。江戸時代の文献を見ていると、「どうやらそうではない」ということが分かります。
「押しも押されぬ」という語形自体は、鶴屋南北の歌舞伎「心謎解色糸(こころのなぞとけたいろいと)」(1810〔文化7〕年初演)に出てきます。『大南北全集』第3巻によって示すと、〈身共とてもその引きで押しも押されぬ御近習役(ごきんじゅやく)〉というのです。少なくとも伝統はある言い方ですね。
では、文法的にはどうなのかというと、同様の言い方が江戸時代の初めからあります。いくつか列挙しましょう。
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