小泉八雲は「怪談」に日本を見つけた

妖怪・怪談ブームが定着した理由

小松 和彦 民俗学・文化人類学者
エンタメ テレビ・ラジオ 歴史

いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。

 NHKの朝ドラ『ばけばけ』は小泉八雲とその妻セツ(節子)をモデルにした話である。小泉八雲といえば「耳無し芳一」や「雪女」などを収めた『怪談』で広く知られている。八雲の作品の多くは妻が語り聞かせた日本各地に伝わる伝説などに題材をえて味わい深い作品に仕立て直された再話であって、八雲は特に怪談・幽霊譚を好んだ。

 それではいまなぜ小泉八雲なのだろうか。その背景には現代日本が空前ともいえる妖怪・怪談ブームを迎えていることがある。コミックやアニメでは『ゲゲゲの鬼太郎』はもちろんのこと『妖怪ウォッチ』『鬼滅の刃』『呪術廻戦』などが人気を博し、都市伝説を下敷きにした現地探訪風映画の『犬鳴村』や『きさらぎ駅』などが若者たちの間で話題になり、さらには怪異体験を語る各種の怪談会ももてはやされている。八雲が取り上げられるのも時代の流れであろう。

小泉八雲 ©文藝春秋

 そこで改めて問うことになる。それではなぜいま妖怪・幽霊ブームなのだろうか。歴史的にみれば、妖怪や幽霊あるいは異界への関心が沸き起こってくるのは、時代の分かれ目である。

 古代から中世への移行期には『今昔物語』などの説話集のなかで様々な怪異・妖怪譚が語られた。中世から近世の移行期にも鬼や蜘蛛、器物などの妖怪譚や英雄の異界訪問譚が絵巻や絵本に描かれ、近世から近代への移行期にも『天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)』や『東海道四谷怪談』をはじめとして妖術や妖怪、幽霊を扱った芝居や小説、錦絵が大人気を博した。それをふまえれば現代も次の時代の移行期にあたっているがゆえの怪異・幽霊への関心の高まりということになるだろう。

 それではなぜ時代の移行期には妖怪や幽霊が跋扈(ばっこ)するのだろうか。その理由は複雑であるが、なによりもまず指摘できるのは、そのような時代のまっただ中にいる人々は次の時代がどのような時代になるかがわからないため「漠然とした不安」を抱えて生活しているからである。心の内部にある「不安」は様々な方向に向かって表出するのだが、その一つが妖怪や幽霊といった怖しい造形となって現れたのである。

 この妖怪や幽霊は長い歴史をふまえて文化の表層へと浮かび出てきたものなので、歴史的・文化的な影響を受けている。つまり過去の物語や造形を利用しつつそれを改変した新しい物語が送り出されるわけである。

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source : ノンフィクション出版 2026年の論点

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