「セツのことがどんどん好きになっていくんです」
9月29日から始まったNHKの連続テレビ小説「ばけばけ」のヒロイン・髙石あかりさんは、松江に来た際、そう話してくれました。髙石さんが演じる松野トキのモデルは小泉八雲の妻・セツです。松江ロケの時などに何度かお会いしましたが、お忍びで小泉八雲記念館にも足を運んでくれるなど、とても勉強熱心。私も資料提供などの形で撮影に協力しましたが、髙石さんに演じてもらえるのは嬉しい限りです。
八雲とセツの曾孫に当たる私は、自らも民俗学を専攻し、9月12日には2人の秘話を明かした『セツと八雲』(朝日新書)を刊行しました。

セツが生まれ、1891年から八雲と共に暮らした松江市で教員の仕事に就き、40年近くが経ちます。私の生家には、八雲が執筆に使った文机や、セツが愛用した姿見などが残されていて、2人を身近に感じながら育ちました。そのまま家具として使っていましたから、子供の頃、家の中でサッカーボールを蹴って遊んでいたら、姿見を割ってしまい、冷や汗をかいたこともありましたが……。
「ばけばけ」の放送決定が発表されたのは昨年6月です。その1週間前に、NHKプロデューサー・橋爪國臣さんから報告を受けましたが、偶然にも八雲記念館でセツの企画展を準備していた最中でしたからビックリしました。その後は、インタビューや執筆、関連書籍の監修依頼などが殺到。放送開始直前の9月中旬には、120件もの依頼が寄せられた日もありました。急に忙しくなったからか、誰かに追いかけられて、路地裏に逃げ込む夢を見たことも。これもセツと八雲への注目ゆえですから、嬉しい悲鳴です。
若い頃の2人は、極貧生活を送っていました。八雲は来日する前に過ごした米国で、路上生活者に近い暮らしも経験していましたし、松江藩家臣の家に生まれたセツも、明治維新で生家が没落。父が始めた機織りの会社で織子として働き、家計を支えた時期もありました。
2人が結婚する前にそれぞれ離婚を経験していたことも共通します。
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