【げ】「言語化」が定着 これも時代の要請か

飯間 浩明 『三省堂国語辞典』編集委員
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国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです

 毎年注目される「新語・流行語大賞」とは別に、辞書編纂者らが地道に続ける「今年の新語」というイベントがあります。2024年の大賞は「言語化」でした。「モヤモヤが言語化できない」「(私の代わりに)言語化ありがとうございます」などと、盛んに使われます。

「言語化」は昔からあるだろう、新語ではないはず、という声はごもっとも。このイベントは、今年あたりに特に広まったと感じられ、国語辞典にも採用されうることばを選ぶものです。「言語化」は今まで辞書にありませんでしたが、今後は載せたいことばになりました。

「言語化」とは、思考や感情にことばという形を与えることです。明治時代から例がありますが、主に学術分野で用いられ、日常語ではありませんでした。戦後に例が増加するものの、昭和の小説ではほとんど使われていません。

 ところが、21世紀になると様子が変わります。たとえば、ラノベの古典的名作、伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(2008年)に〈遅ればせながら脳内で突っ込みが言語化された〉とあるなど、サブカルの分野でもよく見かけることばになりました。

 新聞で「言語化」の例が増え始めたのは2010年代です。それ以前は全国紙4紙を合計しても年間1ケタからせいぜい50件程度だったのが、10年代に急増し、20年代には200件以上に達する年も多くなっています。

 この変化は書籍のタイトルにも現れています。従来、「言語化」を含む書名はまれでしたが、2023年には11件、24年には原稿執筆時点で15件に達しています。三宅香帆さんの『「好き」を言語化する技術』は、中でも話題になった本のひとつです。

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source : 文藝春秋 2025年2月号

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