手術、抗がん剤、放射線治療で年間医療費114万2725円! その結果、腫瘍マーカーは好転した

僕の前立腺がんレポート 第9回

長田 昭二 医療ジャーナリスト

電子版ORIGINAL

ライフ 医療 ヘルス

ステージ4のがん患者となったベテラン医療ジャーナリストが読者に伝えたいこととは――。手記「医療ジャーナリストのがん闘病記」(文藝春秋2023年7月号)が大きな反響を呼んだ長田昭二氏(58)が、「文藝春秋 電子版」オリジナル連載で、自身の病をレポートする。

 

■連載「僕の前立腺がんレポート
第1回「医療ジャーナリストのがん闘病記
第2回「がん転移を告知されて一番大変なのは『誰に伝え、誰に隠すか』だった
第3回「抗がん剤を『休薬』したら筆者の身体に何が起きたか?
第4回「“がん抑制遺伝子”が欠損したレアケースと判明…『転院』『治験』を受け入れるべきなのか
第5回「抗がん剤は『演奏会が終るまで待ってほしい』 全身の骨に多発転移しても担当医に懇願した理由
第6回「ホルモン治療の副作用で変化した「腋毛・乳房・陰部」のリアル
第7回「恐い。吐き気は嫌だ……いよいよ始まった抗がん剤治療の『想定外の驚き』
第8回「痛くもかゆくも熱くもない〈放射線治療〉のリアル「照射台には僕の体の形に合わせて作られた『型』が…

第9回「手術、抗がん剤、放射線治療で年間医療費114万2725円! その結果、腫瘍マーカーは好転した」今回はこちら

「初老独身のお正月ほど侘しいものはない」

「真綿色したシクラメンほど清しいものはない」と綴ったのは小椋佳氏。

「初老独身のお正月ほど侘しいものはない」と綴ったのは僕。

 中高年の独身男性の年末休みは寂しく、そしてせつない。

 普段は酒の相手をしてくれる友人や編集者も、この時期だけは家族サービスに従事したり、「実家に孫の顔を見せなきゃね」とか言いながら帰省したりする。「実家」は建物だから孫の顔を見たって喜ぶはずもなく、彼の発言では「の両親」が省略されているのだが、そのわずかな文字数を省略したくなるほど正月休みは楽しいのだろう。

 かつてはこんな僕にも女房がいた時代もあったので、その時は夫婦で慎ましくも楽しい年末年始を過ごしたものだ。

 僕も女房も正月に帰省する習性を持たなかったので、事前にお年玉だけを郵送しておき、年末年始は夫婦水入らずで過ごしていた。結婚して数年後に、苗場に激安リゾートマンション(80万円!)を買ってからは、正月休みはそこで過ごしていた。

 元日は女房のつくるご馳走を食べながら「ニューイヤー駅伝」を観て、2日もそのご馳走を食べながら「箱根駅伝」の往路を観て、3日目はその残り物を食べながら「箱根」の復路を観る。気が向くと二人で新雪を踏み締めて町内にある小さな神社というか祠のようなところに初詣をしたり、「雪ささの湯」という立ち寄り温泉に入って「うーっ!」と唸ったり、周辺に1軒だけあるコンビニで新聞を買ってきて、窓外の雪景色を横目で眺めつつ、正月特有のどうでもいい記事を読む――という、人も羨む幸せなお正月を過ごしていたものだ。

2024年1月下旬、来社した筆者 ©文藝春秋

よく似た境遇の男が、意外に近くにいた

 思えばあの頃が僕の人生の絶頂期だったようだ。

 その後突如訪れた破局。幸せの象徴だった激安リゾートマンションは「負の遺産」となり、この連載の第6回にも登場したF弁護士の手を借りて処分した。

 年末年始に行く場所を失った僕は、新宿区内の老朽マンションで、永谷園の「松茸の味お吸いもの」に餅を入れたものを「お雑煮」と称して食べる侘しい正月。いまも駅伝は観てはいるが、一人黙って観る駅伝ほどつまらないものはない。

 元来駅伝というものは、女房が断続的に発する

「今年のコニカミノルタはちょっと違うよ」などの根拠の希薄な評論、

「ほらほら、すぐ後ろに順天堂が来てるよ!」などの贔屓選手への叱咤激励、

「頑張った頑張った。よく頑張ったね……」などの田舎のおばさん的な労いの言葉を聞けばこそ盛り上がるのであって、山口瞳風のオヤジが一人で「松茸の味お吸いもの」に入れた餅を食いながら黙って駅伝を観ているサマは、「凋落」「没落」「落魄」といった雰囲気しか生まない。新年を寿ぐめでたさとは対極に位置するものなのだ。

 でもありがたいことに、よく似た境遇の男がいたのだ。しかも意外に近くに……。

 B藝春秋の社員なら誰もが知っている「法務部のK氏」から2日にLINEが来た。

「きっとオサダさんが淋しい正月を過ごしているんじゃないかと思って。よかったら僕が相手をしてあげましょう」

 K氏特有の「上からモノを言う文面」には、彼も正月2日にして早くも苦境に喘いでいる事実が見て取れるのだが、僕は素直に「淋しいから飲もう!」と返信した。「全日本淋しい男選手権大会」の豊島区代表と新宿区代表の2名は4日の夜、池袋西口のビアホールで新年総決起集会を開催した。二人とも「今年初めて交わす、ちゃんとした会話」ということもあり、よく喋った。正月の沈黙は人を饒舌にするものなのだ。

めまいで視野は「天地動転し、マーブル柄」に

 さて、法務部のK氏と呑んだ2日後の早朝、僕は生まれて初めての経験をする。それは、「激烈なめまい」だ。

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source : 文藝春秋 電子版オリジナル

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