医療ジャーナリストのがん闘病記

僕の前立腺がんレポート 第1回

長田 昭二 ジャーナリスト
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僕はいま57歳、前立腺がんの末期患者だ

「がんが転移したと言っても慌てることはありません。当面は普通に仕事もできるし、日常生活での大きな変化もないでしょう。少なくとも1、2年は大丈夫なので、落ち着いて考えましょう」

 がんの手術を受けるための術前検査で、背中の骨(胸椎)への転移が見つかったとき、医師にそう言われた。そしてもうすぐ、その「2年」が経過する。

 年齢を重ねるにつれて時間の経過は早く感じられるものだが、「がん転移」を告知されてからの速度は、それまでの比ではなかった。僕はその貴重な2年間を、呆気にとられたまま過ごすことになる。心の中で「あれよあれよ」と言いながら……。

 僕のがんは前立腺がん。日本では食道がんや膵がんと並んで、男性において増加傾向にあり、毎年約10万人の新規患者が誕生している。早期で見つけられればいくつかの有効な治療法が用意されていて、「比較的予後のいいがん」とされる。上皇陛下の例を挙げるまでもなく、長期生存している患者は少なくない。しかし、転移してしまえば話は別だ。年間約1万2000人がこの病気によって命を落としている。歌手の三波春夫氏や、僕の大好きな名優小沢昭一氏を鬼籍に送ったのもこの病気だ。

 前立腺は、多くの場合「肥大症」か「がん」と絡んで話題に上がる存在で、健康な時にこの臓器を意識することはあまりない。男性の膀胱の下に位置するクルミほどの大きさの前立腺は、尿道を包み込むような形をしている。ここで作られる前立腺液は、精子に栄養を与える役割を担っている。つまり前立腺は、男性にとってきわめて重要な生殖器官なのだ。

 前立腺肥大症とはその名の通り、この前立腺が肥大化していく疾患だ。ほとんどの男性は、40歳を過ぎた頃から前立腺が大きくなっていく。骨盤内の空間には限りがあるので、肥大すると内側に向けて圧力を高めていく。そのため中を通る尿道は押し潰される。中高年男性が「尿の出が悪い」「キレがなくなった」「残尿感がある」などの悩みを持つのは、そのためだ。ただ、前立腺肥大症が命を脅かしたり、がんにつながることはない。いわゆる「良性疾患」の代表的なものだ。

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source : 文藝春秋 2023年7月号

genre : ライフ ライフスタイル 医療