「あの男」が去ったあとに――2025年春、広島県安芸高田市ルポ

神山 典士 ノンフィクション作家

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ニュース 政治

2024年東京都知事選で165万票を獲得し一躍全国区となった石丸伸二氏。広島県安芸高田市で市長をつとめた当時は、SNSを駆使した手法で注目を集めた。しかし、議会との激しい対立の末、居眠りを糾弾された議員とその妻が相次いで亡くなる出来事も起きた。

 

任期途中で辞職した「あの男」は、人口2万6000人の小さな街に何を残したのか――。ノンフィクション作家の神山典士氏が、現地をレポートする。

安芸高田市に何が残ったのか?

 2024年の東京都知事選挙で、あの男は蓮舫に大きく差をつけて約165万票を獲得した。首都東京では全く無名の新人ながら、当選した小池百合子に次いで2位。その知名度は全国区となった。

 そして、現在行われている東京都議会選挙では、地域政党「再生の道」を立ち上げ、42人の候補者を擁立した。同党の候補者公募には全国から1128人が応募し、3次選考の最終面接をYouTubeで公開。50本の動画で再生数は585万8000回を記録した。平均再生数が11万7000回となり、本人は、「快挙と言っていい。政治を扱ってこれだけ再生数がでることはかつてなかった」と誇らしげに語った。

 あの男――石丸伸二(42)。その政治活動は、2020年8月から2024年6月まで広島県安芸高田市で市長を務めたことに始まる。そのスタイルは現在と同様、YouTubeやTwitter(現X)を徹底して利用する「SNS政治」である。

東京都議選が告示され、第一声を上げる「再生の道」代表の石丸伸二(車上左)と演説を聞く聴衆(2025年6月13日、東京・千代田区) ©時事通信社

 市議会の様子をYouTubeにアップし、特定の議員を「悪役」としてやり玉に挙げ、自らは「ヒーロー」を演じる。すると、視聴者たちが最もセンセーショナルな場面を切り抜いては次々と投稿し、動画が拡散していく。

 YouTubeの安芸高田市公式チャンネルは、最盛期で登録者数26万7000人を突破した。人口2万6000人足らずの小さな街が、東京都や神戸市を抜いて全国1位となり、ネット上の話題をさらったのだ(2025年6月現在の登録者は18万4000人)。

 数字だけ見ると、安芸高田市は2004年に6つの町が合併して誕生した小さな自治体で、若手政治家が市政刷新を成し遂げたかのように見える。しかし本来、政治家の評価が決まるのは、「その人が去った後に何を残したか?」だ。

 佐藤栄作の後には沖縄返還という事実が残り、田中角栄去りし後には全国をカバーする新幹線網と高速道路網が残った。中曽根康弘の後には国鉄が民営化されてJR7社が残り、小泉純一郎の後には拉致被害者の3家族が帰国という成果が残った。

 さて、あの男が1期4年(実際には任期満了前に辞職)で去った後の安芸高田市には何が残ったのか。政治家としての「レガシー」だけでなく、2万6000人足らずの市民の心に何を残したのか。それを知りたい一心で、私は車を広島市から北に向けて走らせた。

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