SNS選挙は民主主義なのか

緊急特集 崩れゆく国のかたち

浜崎 洋介 文芸評論家
與那覇 潤 評論家
ニュース 社会 政治 メディア

“社会の分断”から生じる“暴論”にも理由はある

 與那覇 2024年は、台湾・ロシア・アメリカで総統や大統領の選挙があり、インド・フランス・英国、そして日本でも議会の総選挙が行われた「選挙イヤー」でしたね。

 まさに「民主主義」のあり方が問われた1年でしたが、そこで注目を集めたのが、動画配信やSNSの影響力です。既成メディアの予想を覆す結果が、日本では石丸伸二氏が次点となった都知事選、国民民主党が議席を4倍にした衆院選、失職した斎藤元彦氏が返り咲いた兵庫県知事選と続きました。ネットで「釣られた」若年層が、面白半分に投票したためだと、否定的なニュアンスで論じる報道も目立ちました。

 そのためせっかくの「選挙イヤー」でも、むしろ結果が出るごとに「民主主義の危機」を指摘する論評が、メディアを席巻しました。その集大成が、米国のトランプ再選です。

 浜崎 ずっと既存メディアに苛立ってきた僕としては「そもそも民主主義とはこういうものだ」くらいの感じです。この現状を正確に捉えるには、冷戦終結から現在に至る経緯を振り返る必要があると思います。

 フランシス・フクヤマが「政治制度の最終形態は自由民主主義で、これが世界に広がれば歴史は終わる」という著作『歴史の終わり』を1992年に出しましたが、その後のポスト冷戦の30年は、まさに「グローバリズム」と「ネオリベラリズム」が席巻した時代でした。

 ところが、フクヤマが言うようには「歴史」は終わらず、揺り戻しが生じます。2008年に世界金融危機が起こり、その影響でギリシア危機が起こり、その余波で2014年の欧州議会選挙で、フランスでは「極右」と称されるマリーヌ・ルペン率いる「国民戦線」が第一党になりました。続いて2016年には、英国の国民投票でEU離脱派が勝利し、米国の大統領選ではトランプが勝利します。

 この一連の流れは何を意味しているか。エリートや富裕層が推進する「グローバリズム」に対して、大衆層が「国民国家主義」の復権を求める動きです。その意味で言えば、真っ当な民主主義の力学が働いた結果だと僕は見ています。

 與那覇 民主主義が「国家」を単位とすることを、理想の政治にほど遠い「限界」のように捉える立場もありますが、むしろ逆だということですね。放っておけばグローバルな市場と、消費者としてのバラバラの個人しか残らない世界で、両者のあいだに「国家もあるぞ」と示すことに、民主主義の本質がある。

 浜崎 その通りです。その視点から言えば、2024年は「民主主義復活の1年」と言えるかもしれない。

 與那覇 平成に「日本を、取り戻す。」と言って、総理の座についた人がいましたが、いまや世界中が「国家を、取り戻す。」状態だと。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2025年2月号

genre : ニュース 社会 政治 メディア