小説家になろう。私が初めてそう思ったのは小学3年生のとき。読書感想文が市のコンクールで入選して、作品集に載ったんです。作文の一つ一つにコメントがついていて、私のところには「未奈さんの文章には人をひきつける魅力があります。お話を書いてみたらどうですか」とありました。それを見て、書いてみようかなと思ったのが最初のきっかけです。ちなみに、そのとき読んだのは『天才えりちゃん金魚を食べた』という、執筆当時に6歳だった竹下龍之介さんが妹との日常を子供の字で綴った絵本でした。
それから、自分で文章や物語を書いたりしていたものの、賞に応募するようなことはありませんでした。
大人になるにつれて「小説家になるのは一握りの人だけだから」と思うようになって、20代なかばで一度やめます。世の中にはすぐれた小説がいっぱいあるし、ちょっと私には無理だな、と。
当時読んでいた本のなかで一番印象に残っているのが、三浦しをんさんの『風が強く吹いている』でした。駅伝経験のない大学生たちが古いアパートで共同生活を送りながら、箱根駅伝を目指す話です。まったく飽きさせないストーリー展開にすっかり魅了されて、読書の時間が一瞬に感じました。
いったん筆をおいたものの、30代のなかばで再び書こうと思ったのも、小説がきっかけでした。森見登美彦さんの『夜行』に感銘を受けたんです。京都・鞍馬の火祭りのあと、忽然(こつぜん)と姿を消してしまった女性をめぐる物語なのですが、少しネタバレすると、その女性は主人公と別の世界で生きているという設定です。主人公が普段生きている世界が「表」なら、女性が生きている世界は「裏」。表と裏の世界がくるくる入れ替わる様子が最大の魅力です。
私も小説を書けば「裏」の世界へ行けるんじゃないか――。また小説を書いてみようかなという気持ちになったのが、2017年の秋でした。
そして、「女による女のためのR-18文学賞」をふと思い出しました。好きだった豊島(としま)ミホさんが第1回の受賞者だから、賞の存在を知っていたんです。
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