直木賞賞金の使い道

万城目 学 小説家

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 4月末、円安がにわかに進行し、34年ぶりに1ドルが160円台に突入したことがニュースで騒がれていた。

 この歴史的なアメリカに行ってはいけないタイミングを逃さず、6月、私は渡米した。本当は逃したかったが、旅とはこれタイミングの賜物。新刊の準備を終え、ぽっかりと空いたスケジュールを前に、直木賞受賞から働き詰めだった自分を労(いた)わらんと、ニューヨークとロサンゼルスの2都市を1週間で回る一人旅の敢行を決断したのである。

 私にとって32年ぶりの訪米だった。高校生のときコロラド州デンバーに2週間のホームステイで訪れたのが、私のアメリカに関する直接の記憶のすべてで、いつかNYをこの目で見たいと薄ぼんやりと思っているうち、あっという間に歳月は過ぎ去り、やっとの機会をつかんだと思ったら超円安。人生とはままならぬものである。

 治安への不安感を胸にNYに乗りこんだが、うれしい誤算だったのは、現地の治安がすこぶるよかったことだ。もちろん、悪いところは悪いだろうが、ぼんやりと歩いていたらいきなり身ぐるみはがされる、といったかつての街のイメージはなく、ひと昔前なら、絶対に人前でスマホを出すな、というアドバイスを聞かされただろうが、そんな心配もなかった。なぜなら、道行くほぼ全員がスマホを剥き出しで持ち歩いているからである。キャッシュレスが徹底しているため、財布を携帯する必要もなく、ただスマホだけを手に歩いている人の多さたるや!

 地下鉄に乗っても、いきなり叫ぶ輩もおらず、いたって平穏。おかげで昼間は安心して、歩き、地下鉄に乗り、街巡りをすることができた。

 ただし、1ドル150円超えのスーパー円安だ。食べ物は10ドル、飲み物は5ドルが値段の最低ライン。メトロポリタン美術館やMoMA(ニューヨーク近代美術館)の入場料も、ともに30ドル。いちいち円換算していたら気が滅入る。

「旅でケチってはいけない」

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source : 文藝春秋 2024年10月号

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