小川「松浦先生は『人間嫌い』のイメージでした」
松浦「小川作品にはフィッツジェラルドの感触がある」
今年1月、第168回直木賞に小川哲(さとし)氏の『地図と拳』が選ばれた。同作は、日露戦争前夜から第二次世界大戦後までの半世紀にわたって、満洲の架空都市〈李家鎮〉に引き寄せられた人々の物語を描く圧巻の歴史巨編だ。実は、小川氏が東京大学・超域文化科学専攻に在籍した際の指導教官だったのが、作家の大先輩である松浦寿輝(ひさき)氏だった。このたび、貴重な“師弟”対談が実現した。
小川 松浦先生、お久しぶりです。
お会いするのは、10年ぶりぐらいでしょうか。
松浦 僕が東京大学を退官した2012年が最後だったので、11年になりますね。時が経つのは早いなあ。
小川 僕は同業者の作家は、どれだけ偉い方でも「先生」と呼ぶことはないのですが、松浦先生は本当に僕の先生だったので、「先生」とお呼びします。先生には僕が学部生の頃、卒業論文の指導教官を担当していただきました。僕は大学院入試に落ちてしまい、ご迷惑をおかけしてしまって。今日も、卒論を審査されているような気分で、めちゃくちゃ緊張しています(笑)。
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source : 文藝春秋 2023年5月号