8月、高校生直木賞の選考会があった。この高校生直木賞とは、本家の直木賞で候補作に選ばれた作品の中から、高校生が自分たちの感性でベストの作品を決める試みで、各校で開かれた読書会の結果を受けて、代表者が集まって受賞作を決める。面白いことに、これまで本家の直木賞受賞作品が真っ先に落選することもあった。この度は『渦』(大島真寿美、文藝春秋)、『熱源』(川越宗一、文藝春秋)、『嘘と正典』(小川哲、早川書房)、『平場の月』(朝倉かすみ、光文社)、『トリニティ』(窪美澄、新潮社)が候補になり、最終的に『渦』が選ばれた。第7回目の今年は、過去最多の32校が全国から参加した。
今年は、感染症対策のため初のオンラインでの開催だった。私が勤める学校を含む都内の5校のみが実際に会場に集い、その他の高校はオンラインで参加した。私の学校では、例年ならば校内読書会を数回おこない学校として1冊選んで参加するのだが、今年は3月からの休校で校内での話し合いを十分にすることができなかった。他の学校の代表者も、校内で多様な意見を吸い上げたり話し合ったりすることのないまま臨んでいるような様子だった。
一方、オンラインならではの良さもあった。私の学校から参加した生徒は内気で人見知りだったが、会場に5人しかいなかったため、気さくに話しかけてもらい楽しい時間が過ごせたという。また、普段は照れくさくて自分で手を挙げて発言できなくても、パソコンの前では、気負ったり緊張したりせず楽な気持ちで参加でき、積極的に素直に意見が言えたようだ。さらに、会議の議事録を即座に視覚化してパソコンの画面上に見せる「グラレコ」という試みも初めておこなわれ、オンライン時代らしい選考会となった。
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source : 文藝春秋 2020年11月号