パレスチナ自治区ガザの紛争は、人質奪還とハマス壊滅を目的とするイスラエルの軍事作戦によって、4万人を超える死者を出した。その多くが民間人で、1万6000人は子どもだとされる。
地元メディアによると、この作戦のためにイスラエル軍は、「ラベンダー」というAI(人工知能)システムを開発した。ビッグデータを解析してテロリストを特定するだけでなく、スマホなどの位置情報から標的をリアルタイムで追跡できるという。
ハマスの戦闘員はガザ地区の地下に張り巡らされたトンネルに潜伏しており、地上に現われるのは家族と会うときくらいだ。ラベンダーが指示する空爆の標的は戦闘員の自宅であることが多く、結果として、同居する家族・親族や、同じアパートに住む無関係の市民が「コラテラルダメージ(副次的な被害)」を被り、死者・負傷者が積みあがっていく。
「ラベンダー」の詳細は軍事機密だが、その開発には情報・分析企業の「パランティア」がかかわっているとされる。パランティアは9・11同時多発テロを機にピーター・ティールが設立したベンチャー企業で、警察やCIAなどの情報機関が保有する膨大なデータから、犯罪者や危険人物を特定する汎用的なプログラムを提供している。
ティールはシリコンバレーを代表するベンチャー投資家で、2016年の米大統領選でトランプを支持した保守派のリバタリアンとして知られている。
リバタリアンは「自由原理主義者」のことで、個人の自由を絶対のものとして国家の介入を嫌う。ティールだけでなく、イーロン・マスクや(Facebookを創業した)マーク・ザッカーバーグなど、シリコンバレーの大立者の多くは、強大なテクノロジーによって社会を変えていこうとするテクノ・リバタリアンだ。彼らの理想を実現するには技術開発を「加速」させなければならず、そのためには無制限の自由が必要なのだ。
「国家」に近づくプラットフォーマー
ここで、リバタリアンは「反国家」なのに、なぜ国家の軍事や諜報にかかわるのか、疑問に思うかもしれない。だがこれは、矛盾でもなんでもない。
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