なぜアメリカの10代で急増しているのか?
トランスジェンダー活動家らのキャンセル運動によっていったんは翻訳本の刊行が中止になり、邦題を『トランスジェンダーになりたい少女たち』に変えて出版された本書は、社会的な話題にはなったものの、その一方で、公に語ることがはばかられるような雰囲気になっている(すくなくとも、新聞・雑誌に書評が掲載されたことはほとんどない)。
SNSなどで見られる議論は、本書を「デマ本」として全否定するか、社会に警鐘を鳴らす勇敢な試みとして全肯定するかのいずれかで、当然のことながら両者の主張が噛み合うことはなく、無意味な罵り合いがえんえんと続いている。
だが本書は、トランスジェンダーを差別したり、偏見を植えつけたりするようなものではなく、そもそもトランスジェンダーについて述べたものですらない。著者の主張を要約するならば、「2010年代になってから、アメリカでは“トランスジェンダー”が10代の(主に白人の)少女のあいだでファッション化し、それによって多くの弊害が生じている」になるだろう。トランスジェンダーは、このCraze(文化的熱狂)の被害者なのだ。
話の前提として、性自認には生物学的な基盤がある。近年の脳科学が明らかにしつつあるように、性別への強い違和感は、(主に)遺伝的な要因によって、「間違った身体に囚われてしまった」ことから生じる。
トランスジェンダー活動家らの主張はここまでは正しいが、しかしそうなると、アメリカを中心とする英語圏で、この10年ほどのあいだに性別違和を訴える思春期の若者が急増していることが説明できなくなる。生物学的な要因であるなら、時代や文化を問わず、トランスジェンダーの割合はほぼ一定のはずだからだ。
だとしたら、10代のあいだで広まる“トランスジェンダー”は“(文化的)感染症”のようなものということになる。これは公衆衛生学の基本だが、「性自認は主観的なもの」という保守派の主張と同じと見なされたため、強い反発を引き起こすことになったのだろう。
ではなぜ、アメリカでは「トランスジェンダーになりたい少女たち」が増えているのか。その理由は、彼女たちの多くが「裕福でリベラルな家庭でなに不自由なく育った白人」であることから推察できる。
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source : 文藝春秋 2024年9月号