「実は、今度の文藝春秋さんの表紙で、兄貴とコラボみたいなことができればと思ってまして……」
いつもの控えめな口調でそう持ちかけられたのは、昨年12月、都内のアトリエにお邪魔した際のことでした。
日本画家の村上裕二さんは、2022年1月号から小誌の表紙画をご担当頂いています。元東京藝術大学長の平山郁夫さんを師としながら、富士山からウルトラマンまで従来の日本画の枠組みを超えたモチーフを描きファンを魅了する、超人気作家のお一人。現代美術家の村上隆さんとご兄弟であることは、一部の美術ファンには周知の事実ですが、これまで公にすることはありませんでした。美術雑誌からは「お二人で」というオファーが何度もあったそうですが、ずっと断り続けてきたのだそうです。
今回、ファン卒倒のコラボレーションが実現した背景には、お父様の三回忌と、国内では約8年ぶりとなる隆さんの京都個展のタイミングが重なったこと、そして、お父様が文藝春秋の長年の愛読者であったことが大きかったといいます。
表紙画「お花 舟渡の夕焼け」は、お二人が7歳まで過ごした板橋区の工場地帯の記憶の中の夕景を描いています。
かつて、裕二先生はインタビューでこう語っていました。
「画家にとりまして、何を描くかが命です。本当に好きなもの、愛するもの、信じるものを描く。その真剣度が胆です」
幼少期の大切な記憶、そしてお兄様の創作物を描くまでにはきっと、こちらが想像する以上に長い長い道のりを要したに違いありません。
表紙画の担当になり、「絵を描く」とは一体どういうことなのだろうとずっと考えていました。先生が出展する院展にも何度かお邪魔し、圧倒的な引力が、技術から来るものなのか何なのか疑問に思っていました。今回、特集記事に掲載した兄弟対談で、ひとつのヒントをもらいました。
隆 「芸術家は、自分の中の深いところを掘りすすめて行くその旅の経験を作品にしている」
私たちが見ているのは、そうした旅の軌跡なのだと。
なぜ絵を描くのか、なにを描くのか、日本画とは、日本とは。兄弟対談「オヤジはマジメだったなあ」には、幼少期の思い出から日本画論、村上隆氏の知られざる卒業制作まで。描かない人にとっても発見に満ち満ちた、刺激的なエッセンスが詰め込まれています。ぜひご覧ください。
(編集部・佐藤)
source : 文藝春秋 電子版オリジナル