衝撃的な、あまりに衝撃的な告発ーー。
小池百合子・東京都知事の側近だった小島敏郎氏(元都民ファーストの会事務総長・弁護士)が、「小池氏の学歴詐称工作に加担してしまった」と告白する手記を「文藝春秋」5月号に寄せました。
小池氏の学歴詐称疑惑は、決して新しい話ではありません。アラビア語会話もつたないことから、難関で知られる「国立カイロ大学卒業(しかも首席と自称)」という学歴は、かねてから疑わしいと指摘されてきました。
なかでもインパクトがあったのは、ノンフィクション作家の石井妙子氏が『女帝 小池百合子』(文春文庫)で紹介した、カイロ時代の友人・北原百代氏の証言です。留学時代の共同生活を振り返りながら、小池氏が進級試験に落第して、カイロ大学を去ったことをくわしく語るもので、今度こそ疑惑に決着をつけるものと思われました(今号には北原氏による「カイロで共に暮らした友への手紙」も掲載)。
『女帝』が出たのは前回の都知事選直前のタイミング(2020年)。しかも発売直後からベストセラーとなり、この新証言に勢いを得た都議会自民党は、厳しく追及する構えを見せ、小池氏の再選は一気にあやぶまれる事態となったのです。
小島氏は当時、小池氏のブレーンの一人でした(写真を見ていただければ、豊洲移転問題の会見に出ていた人物だと思い出す方も多いでしょう)。今回の手記は、この最大のピンチに追い込まれた小池氏がどのような手を使って窮地を脱したのかという、側近しか知りえない、都知事が秘かに犯した罪の告発なのです。
2020年6月、小島氏は小池氏から呼び出され、このピンチを打開する方法はないかと相談を受けます。
カイロ大学卒業を信じていた彼は、狼狽える小池氏の様子を不思議に思いながら、「カイロ大学から、声明文を出してもらえばいいのではないですか」と進言します。もちろん、これからエジプトの大学と大使館に働きかけ折衝するわけですから、そう簡単にいくとは思っていませんでした。
ところが、わずか3日後。「コイケユリコの卒業を証明する」と記したカイロ大学声明がエジプト大使館のフェイスブックに掲載されたのです。
「えっ! こんなに早くカイロ大学が対応してくれたの?」
発案者も驚くほどのスピードでした。
小島氏は後に、この「カイロ大学声明」も、彼女の学歴と同じく小池氏によって作られたものであることを知ります。その経緯は、「事実は小説より奇なり」そのものですから、ぜひ記事を読んでいただきたいですが、小島氏は次のように告発しています。
「声明文は、図らずも、私が発案して、A氏が文案を作成した。それに小池さん自身が修正を加えた」
「(カイロ)大学を卒業していない小池さんは、声明文を自ら作成し、疑惑を隠蔽しようとしたのです」
A氏というのは、このとき工作に深くかかわり、のちに小島氏と同じく深く後悔することになった、もう一人のキーマンです。
A氏は窮地を脱し再選を果たした小池氏に会った際、
「エジプト大使館のフェイスブックに載っけるというのは、私、思いつかなかったわ!」
と上機嫌で言われたそうです。「してやったり」とほくそ笑む小池氏の表情が目に浮かぶようです。
私は、小島氏の告発内容を最初に聞いたとき、まさか、そんな手を使うなんて……とその恐れを知らぬ手口にあっけにとられました。そして思い出したのが安倍晋三元首相の小池氏評「小池さんは、常にジョーカーです」(『安倍晋三 回顧録』中央公論新社)。
ジョーカーは、トランプでは切り札にもなりババにもなる。そこから「思わぬ手を使って事態を変える人」という意味があります。
小池氏はいまから4年前、疑惑の影を蹴散らし再選を果たしました。3期目を目指す選挙は今年7月。彼女は今回も選挙公報に「カイロ大学卒業」と書くのでしょうか。そして新聞・テレビはまた騙されてしまうのでしょうか。
小池氏は、小誌の取材にだんまりを決め込んでいます。しかし、説明しなくてはならないことはたくさんあります。
多くの方々が小島氏の手記を読んで、小池百合子という政治家の「ウラの顔」を知ってほしいと願っています。
(編集長・鈴木康介)
source : 文藝春秋 電子版オリジナル