参政党の主張をロールズの正義論から考える『正義論 改訂版』ジョン・ロールズ(川本隆史・福間聡・神島裕子訳)

第144回

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官
エンタメ 政治 読書

 7月20日、第27回参議院議員選挙の投票が行われ、20〜21日に開票が行われた。最終議席の確定(比例区の自民党・鈴木宗男氏)が21日昼前にまでもつれこんだ。このような事例は珍しい。

 与党の自民党と公明党が大幅に後退した(自民13議席減、公明6議席減)。この原因を自民党のパーティー券「裏金議員事案」の余波と見なすと、事柄の本質を見失う。「裏金議員事案」はきっかけに過ぎない。1990年代初頭より、自民党による「キャッチ・オール・パーティー」という国民全体の利害調整を行うというシステムは機能不全を起こしていた。そこに公明党が加わり、政策の幅を広げ、連立与党として国民全体の受け皿となる仕組みの維持に腐心してきたが、それが臨界を越えたというのが、今回の選挙の結果と思われる。今後、日本の政治は、デンマークなどの欧州諸国の一部のように、比較第一党を核に多党間の連立という構造に変化していく可能性がある。

 石破茂首相は、カルヴァンの影響を受けたプロテスタントのキリスト教徒だ。首相辞任のような重要な事柄について、石破氏は、神に祈り、その結果、自らの心に聞こえてきた神の声に忠実に行動する(筆者もカルヴァンの影響を受けたプロテスタントのキリスト教徒なので、この発想法が皮膚感覚でわかる)。石破氏は続投するつもりだ。首相続投が神によって自らに与えられた使命という強い認識を持っているので、周囲から「石破降ろし」の圧力が加えられても、そう簡単に石破氏が辞任することはない。

 現時点での参政党は可塑性の高い政党である。参政党は排外主義政党であるとか人種(民族)差別政党であるという批判があるが、その批判によってかえって排外主義的で人種主義的な度合いを高めるという「自己成就する予言」になる可能性がある。開かれた場での、丁寧な言葉遣いと、相互に人間的な敬意を持った、既存の政治勢力と参政党との対話が、参政党が極端な政治路線を取らないようにするために重要と考える。参政党の最も危険な政策は、ワクチン接種の拒否運動だ。ワクチンという外部の物質が体内に侵入することを悪とする思想は、身体性に裏打ちされた排外主義だからだ。これを社会に拡張すると移民排斥になる。参政党が「反ワクチン」をイデオロギー化した世界観政党(価値観政党)であることを過小評価すべきでない。

 永田町(政界)のウォッチャーは、ほぼノーマークであるが、「チームみらい」から安野貴博氏が当選したことの意味は大きい。この政党は、IT、生成AIを用いて、ファクトを基礎とした政治の実現を訴えるエリート・エンジニア等によって形成されている。現下日本政治における理性の破壊に歯止めをかける勢力として期待できる。

「正義」の二つの原理

 さて、今回の選挙で突如浮上した外国人問題は、正義の観点から冷静に論じなくてはならないのに、その姿勢が候補者に欠けていた。大学で正義について語る際の基本書と見なされている『正義論』を紹介する。まずロールズは正義は二つの原理によって成立していると強調する。

〈第一原理/各人は、平等な基本的諸自由の最も広範な全システムに対する対等な権利を保持すべきである。ただし最も広範な全システムといっても〔無制限なものではなく〕すべての人の自由の同様〔に広範〕な体系と両立可能なものでなければならない〉

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source : 文藝春秋 2025年9月号

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