創価学会名誉会長(創価学会第三代会長、SGI[創価学会インタナショナル]会長)の池田大作氏が逝去した。
〈創価学会の池田大作名誉会長は、二〇二三年一一月一五日夜、新宿区の居宅で老衰のため、逝去いたしました。享年九五歳。/近親者のみで家族葬を行いました。お別れの会を別途、日時を改めて開催する予定です〉(創価学会公式サイト、11月18日)
池田氏の業績については、マスメディアでは創価学会を巨大組織に発展させたこと、政界に進出したことに焦点があてられている。
〈創価学会名誉会長の池田大作氏の死去は自民、公明両党の連立政権にも影響を及ぼす。池田氏は一九六四年に公明党を結成した創設者で「平和の党」の理念形成や集票力拡大に力を発揮してきたためだ。/米国から政府専用機で帰国中だった岸田文雄首相は一八日、池田氏の死去を受けて自身のX(旧ツイッター)に「深い悲しみにたえない」と投稿した。「国内外で平和、文化、教育の推進などに尽力し、重要な役割を果たされ、歴史に大きな足跡を残した」とたたえた〉(日本経済新聞電子版、11月18日)
評者は同志社大学神学部と同大学院神学研究科でプロテスタント神学を学んだ宗教専門家でもある。評者の理解では池田氏による最大の業績は日蓮仏法を継承する日本の宗教団体である創価学会を世界宗教に発展させたことだ。これは過去に日本の宗教人の誰もできなかったことだ。
キリスト教と似た歩み
世界宗教化の過程でキリスト教と創価学会はよく似た歩みをしている。キリスト教はユダヤ教から発生した。イエス自身は自らをユダヤ教徒と考えていた。それを世界宗教に発展させたのが、生前のイエスと面識のなかったパウロだ。パウロはユダヤ教の伝統である割礼に固執するキリスト教徒とは別の道を歩み異邦人伝道(世界宣教)を行なった。その結果キリスト教は世界宗教になった。パウロ派以外のキリスト教教団は消滅してしまった。創価学会も当初は日蓮正宗の在家宗教団体だった。しかし、日蓮正宗宗門が1991年に創価学会を破門したことを契機に、創価学会は宗門と訣別し、世界宗教への道を本格的に切り開いていく。
さらにキリスト教が世界宗教になる上で重要だったのが313年にローマ帝国のコンスタンティヌス帝が公布したミラノ勅令だ。ミラノ勅令によって公認されたことにより、教会から反体制的な性格が稀薄になり、キリスト教は「与党化」した。「与党化」して、権力を行使する機能を担わなければキリスト教の理念を現実の社会で実現することはできない。もっともそれはキリスト教が体制と完全に一体化したことを意味しない。ナチス・ドイツが台頭したとき、ドイツのプロテスタント教会の一部の人々は「告白教会」を結成し、命を懸けて抵抗した。創価学会を支持母体とする公明党が自民党と連立政権を構成することによってこの教団も「与党化」したと言えよう。しかし、注意深く見ると、創価学会は国家や政府と完全に一体化しているわけではない。ロシア・ウクライナ戦争に関して、創価学会は即時停戦を訴え、池田氏がそのイニシアティブをとった。例えば、本年1月11日の池田氏によるウクライナ危機と核問題に関する緊急提言「平和の回復へ歴史創造力の結集を」だ。また、沖縄の公明党は、辺野古新基地建設に反対しているのみならず、在沖米海兵隊の海外移転を主張している。それは沖縄の創価学会が、平和について沖縄の民衆の視座で考え、行動している現実を反映している。東京の公明党本部とは異なる方針をとる沖縄の公明党の活動が容認されているのも、他の政党とは異なる生命尊重、人間主義の原理で公明党が動いていることを示す証左だ。
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