評者の若者観は分裂している。周囲に全く別の生態系があるからだ。
まず同志社大学の神学部や同大学学長が塾長をつとめる「新島塾」や生命医科学部の野口範子教授が主宰する「サイエンスコミュニケーター養成副専攻」に集う学生たちだ。
「新島塾」と「サイエンスコミュニケーター養成副専攻」には文科系、理科系の学生が集う。そこで知り合う学生たちには、1回生のうちに高校までの知識の欠損を埋める指導をする。文科系の学生は数学が弱く、理科系の学生は英語が弱い。倫理(哲学、心理学が含まれる)、政治経済については理科系の学生の方が強い。国立大学理科系を目標に勉強した学生は、大学入学共通テストの社会で倫理と政治経済を選択する人が多いからだ。理由は歴史・地理系と較べて覚えることが少ないからだ。
最近、評者の授業を受けることを目的で神学部や「新島塾」に入ってくる学生は、入試科目にないにもかかわらず数学はきちんと勉強している。社会に出てから数学が役に立つと評者があちこちで書いていることの影響を受けたようだ。
こういった学生とは、哲学書、神学書、人類学書、古典小説などを輪読し、解説しながら読み進める。読了まで200時間以上かかることもあるが、みんなついてくる。京都の授業だけでは時間が足りないので、東京からZoomでの追加講義も行っている。取り上げたのはカント『純粋理性批判』、バルト『ローマ書講解』、ペールマン『現代教義学総説』、トッド『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』、ゲルナー『民族とナショナリズム』、宇野弘蔵『経済原論』などだ。学生たちは日本ならば夏目漱石、森鷗外、外国ならばダンテ、モーパッサン、トルストイ、ドストエフスキー、ゾラなどの古典小説をよく読んでいる。議論も「人間の生きる意味は何か」「社会と人間の関係をどう考えるか」「資本主義を超克するシステムの構築は可能か」「永遠の命とは何か」といったテーマで、夕食をとりながら議論し、さらにホテルのバーで続けることも多い。
教養主義とシニシズム
学生たちは例外なく書くことに興味を示すようになり、質量共に卒業論文相当の論考を4〜5本書く。就職は、証券会社や通信会社の総合職、国家公務員総合職、地方公務員上級職、全国紙や公共放送の記者が多い。同志社の他学生と較べて公務員指向が若干強いのは、外務官僚だった評者が公務員は若い時期の教育が充実していて一生役に立つ知識と技能を身につけることができると強調している影響かもしれない。評者には小さなカリスマ性があるので、30人くらいまでの少数精鋭集団を作るのは得意だ。同志社では大正教養主義のような時代錯誤の集団を作ってしまう傾向があるようだが、卒業生達から恨まれているわけではなく、今もよく連絡が来る。こういう若者達と一緒にいるのは居心地が良い。
他方、20代、30代の編集者や新聞記者と接すると、「いったい何をしたく、何を考えているのか」とわからなくなることがある。いずれも入学難易度では同志社大学よりも高い大学を卒業した人が大部分だ。
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