国家戦略としての「家族論」『友』ペク・ナムリョン(和田とも美訳)

ベストセラーで読む日本の近現代史 第126回

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官
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 自民党の保守派は国家の基礎が家族(家庭)にあると強調する。そのことが「こども家庭庁」(2023年4月発足)を設置する際の議論で可視化した。

〈子ども政策の司令塔として新たにつくる省庁名を、政府・与党は「こども家庭庁」とすることで一致した。当初、政府が自民党側に示していたのは「こども庁」だった。名称が突如として変わった背景に何があったのか。/(二〇二一年一二月)一五日午後、自民党本部七階の会議室。「こども・若者」輝く未来創造本部などの合同会議で、座長を務める加藤勝信・前官房長官がこう理解を求めた。/「子どもは家庭を基盤に成長する。こどもまんなか政策を表現しつつ、『こども家庭庁』とさせてほしい」/(略)参院のベテラン議員は「子どもは家庭でお母さんが育てるもの。『家庭』の文字が入るのは当然だ」と言う。党の政策責任者である高市早苗政調会長も「こども家庭庁」案を推し、官邸側に働きかけていたという〉(「朝日新聞デジタル」2021年12月20日)

プーチンと自民党の「家族観」

 実は、このような自民党保守派の主張はロシアのプーチン大統領の家族観に近い。大晦日の晩、日付変更の直前、国家最高指導者(ソ連時代は共産党書記長、現在のロシアは大統領)がテレビで国民に向けた「新年の辞」を述べるのがロシアの慣習になっている。今回、プーチン氏は、家族の団結を高めることが新年の国家目標であると強調した。

〈来たる二〇二四年は、わが国では「家族の年」とされています。真の大家族とは、子どもたちが成長し、両親への関心、温かさ、気遣い、互いへの愛と尊敬が支配する家族のことです。祖国への献身が生まれ育まれるのは、そのようなあらゆる世代の親族関係、家庭への愛情からです。来年は、ロシアのすべての家族に幸多かれと祈ります。結局のところ、それぞれの家族の歴史は、私たちの巨大で美しく、愛する祖国の歴史なのです。私たち全員、つまりロシアの多くの民族に属する人々が、その運命を決定し、創造しているのです。私たちはひとつの国であり、ひとつの大きな家族です。私たちは祖国の着実な発展、国民の幸福を保証し、さらに強くなります。私たちは共にいます。そして、これこそがロシアの未来を保証する最も確かなものなのです〉(2023年12月31日、ロシア大統領府HPより評者訳)

 プーチン氏は、拡大した家族としてのロシア国家という理念を持っている。これはソ連時代の国家観とは異質だ。あの時代においては共産党が指導する国家への忠誠が最も重要な価値だった。

 ソ連には7歳から9歳までの児童のほとんどが加わる「オクチャブリャータ」という組織があった。「10月の人々」という意味だ。ユリウス暦の1917年10月(グレゴリオ暦では同年11月)に社会主義革命が起きた関係で「10月の人々」は共産党支持者という意味になる。

 この団体の徽章に象(かたど)られているのはパヴリック・モロゾフ(1918年11月14日〜32年9月3日)だ。スターリンによる農業集団化が進められていた1931年の秋にパヴリックは父親が穀物を隠匿していると秘密警察に密告。父親は逮捕され、裁判で悪質な富農(クラーク)と認定され、強制収容所に送られた。当時、パヴリックは13歳だった。共産党と政府は、パヴリックを模範的なソヴィエト的少年と賞賛。その後、パヴリックは9歳の弟フョードルを手下にして次々と村人を秘密警察に密告する。村人はモロゾフ兄弟を恐れると同時に恨んだ。翌32年9月6日、この兄弟の刺殺体が発見された。当局は、2人がクラークによって殺されたという宣伝を展開し、家族よりも共産党への忠誠を訴えた。

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source : 文藝春秋 2024年3月号

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