「棲み分け理論」が世界戦争を防ぐ『最終戦争論』石原莞爾

第146回

佐藤 優 作家・元外務省主任分析官
エンタメ 政治 国際 読書

 7月20日、参議院議員選挙の投開票が行われ、新興勢力の参政党が14議席を獲得し、比例代表の得票は自民党、国民民主党に次ぐ742万票に上った。選挙前の7月2日に8党首討論会が行われた。評者にとってもっとも興味深かったのが神谷宗幣代表の国際情勢認識だ。神谷氏はこう述べた。

〈国民の暮らしを守り、希望と夢を持てる日本を取り戻したい。30年の経済停滞の背景には、グローバリズムがある。国境を越えて規制を緩和すると、中間層が没落し、貧困化していく。今世界ではそういったものと戦う政党が出ており、参政党は日本でその位置を占めたい。減税と積極財政をしっかりやって、移民や外国人に頼らない国家運営を提言していきたい〉(朝日新聞デジタル、7月3日)

 この話を聞いて、評者は若干、安心した。神谷氏は、「棲み分け理論」に基づいて、日本人はこぢんまりとした生活をしていけばいいと考えていることが透けて見えたからである。神谷氏が主張するグローバリズムから距離を置くことが日本が生き残る上で重要と評者も考えている。

 ところで、バイデン前米大統領が考えていたのは、民主主義や自由といった価値観に基づく世界の統合だったように思える。その嚆矢がロシア・ウクライナ戦争だった。ロシアに勝利した後は、米国を中心とする西側連合が、イラン、中国、北朝鮮などの権威主義国家、独裁国家に対して、民主主義と人権を尊重する体制転換を力を用いてでも実現する――ロシア・ウクライナ戦争の先には民主主義のための世界最終戦争が続いていたのだ。もっともトランプ現米大統領が強調しているように「あの戦争はバイデンの戦争」で、当時の米国政府高官が深く関与していた。トランプ氏が大統領に返り咲かなければ、日本もバイデン氏の思い込みによる民主主義のための世界最終戦争に巻き込まれていたかもしれない。

『最終戦争論』石原莞爾

 世界最終戦争構想に関しては、米国よりも日本の方が先輩だ。満州国建国の立役者であった石原莞爾の考えを見てみよう。1941年11月9日に脱稿した〈「最終戦争論」に関する質疑回答〉において石原は、世界を統一するために戦争が不可欠である理由について、こう述べている。

〈第一問 世界の統一が戦争によってなされるということは人類に対する冒瀆であり、人類は戦争によらないで絶対平和の世界を建設し得なければならないと思う。

 答 生存競争と相互扶助とは共に人類の本能であり、正義に対するあこがれと力に対する依頼は、われらの心の中に併存する。昔の坊さんは宗論に負ければ袈裟をぬいで相手に捧げ、帰伏改宗したものと聞くが、今日の人間には思い及ばぬことである。純学術的問題でさえ、理論闘争で解決し難い場面を時々見聞する。絶大な支配力のない限り、政治経済等に関する現実問題は、単なる道義観や理論のみで争いを決することは通常、至難である。世界統一の如き人類の最大問題の解決は結局、人類に与えられた、あらゆる力を集中した真剣な闘争の結果、神の審判を受ける外に途はない。誠に悲しむべきことではあるが、何とも致し方がない。(略)/最終戦争によって世界は統一される。しかし最終戦争は、どこまでも統一に入るための荒仕事であって、八紘一宇の発展と完成は武力によらず、正しい平和的手段によるべきである〉

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source : 文藝春秋 2025年11月号

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