【商社の三国志】日本流「投資銀行」のたくましき男たち 商事・物産・伊藤忠の生き残り戦略

第5回

大西 康之 ジャーナリスト
ビジネス 経済 企業 マネー 歴史

 総合商社大手3社が5月に発表した2025年3月期決算の連結最終利益ランキングは、9507億円の三菱商事が首位、9003億円の三井物産が2位、8802億円の伊藤忠商事が3位だった。住友商事と丸紅を加えた5社で「5大商社」とも呼ばれるが、上位3社が他の2社を引き離し、熾烈な首位争いを繰り広げている。注目は、岡藤正広氏が社長になった2010年以降、2強の商事(三菱)、物産(三井)を激しく追い上げている伊藤忠だ。

 同時に発表した2026年3月期の連結最終利益の見通しは、伊藤忠が9000億円、三井物産が7700億円、三菱商事が7000億円。予想通りなら伊藤忠が首位になる。「株式市場の企業への期待」を表し、業績の先行指標となる株式時価総額ではすでに伊藤忠が、2024年秋に三菱商事を抜いてトップに立っている(下図参照)。

 

 伊藤忠商事が目指すのは、株式時価総額と、真水の利益である「最終利益」、資本効率の良さを表す「自己資本利益率(ROE)」の三つで首位に立つ「三冠」だ。時価総額に加え、2025年3月期の「ROE」でもすでに首位を獲得しているので、今期の最終利益が予想通りでトップなら「三冠達成」である。

 なぜ、伊藤忠は三菱、三井に追いつけたのか。理由はその勇猛さにある。1977年、経営破綻した大手商社の安宅産業を吸収合併したのが5大商社への第一歩。それから半世紀近くが経過した現在も、顧客の車を傷つけて保険金を水増し請求するなどの行為で社会的信用を失った中古車販売の「ビッグモーター(現WECARS)」を傘下に収めて再建に取り組んでいる。火中の栗を拾うスタイルは総合商社の中でも際立っている。

伊藤忠・中興の祖は瀬島龍三

 戦後しばらくの間、商社業界には「持てる者」と「持たざる者」の差が明確にあった。戦前からバックに巨大なグループ企業群を持ち、政府との近さから様々な既得権を持っていたのが財閥系の三菱商事と三井物産だ。業界で「商事」と言えば三菱商事、「物産」と言えば三井物産を指し、伊藤忠商事、住友商事、日鉄物産を指すことはない。三菱、三井が別格である証左だ。

 明治の時代に岩崎弥太郎の海運業から始まった三菱商事と、江戸時代の呉服屋、両替商から始まった三井物産は、戦後、GHQに解体されるまで巨大財閥の中核をなし、その後も貿易を軸に日本経済の復興を牽引した。財閥には「住友」もあるが、商社の住友商事が設立されたのは戦後の1952年と歴史が浅く、グローバルネットワークでも商事、物産には敵わない。

 伊藤忠と丸紅は、「糸へん商社」と呼ばれ、住商よりさらに格下に見られてきた。伊藤忠と丸紅は同根で、近江商人だった伊藤長兵衛の二男である伊藤忠兵衛が1872年に大阪本町二丁目に創立した呉服商「紅忠(べんちゅう)」が両社のルーツ。1914年に設立された伊藤忠合名会社から神戸支店、東京支店、海外店の営業権を1918年に引き継いだのが伊藤忠商事。伊藤忠合名会社の一部を引き継いだ伊藤忠商店と伊藤長兵衛商店が1921年に合併してできたのが丸紅だ。

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source : 文藝春秋 2025年7月号

genre : ビジネス 経済 企業 マネー 歴史