12月号の目玉記事として、16ページのボリュームで掲載したのが、作家の沢木耕太郎さんと講談師の神田伯山さんとの対談です。
この異色の組み合わせは、沢木さんが江戸時代に実在した講釈師・馬場文耕を主人公にした小説『暦のしずく』を今年刊行したことから、実現しました。
長時間にわたる対談の中で、特に印象的だったのは、伯山さんが熱っぽく、力強く語っていた“師弟愛”。

「(師匠の神田)松鯉の元に行ったのは、自分の人生で最高の大正解」
「弟子には、講談師として食っていくための地図を渡しているイメージです」
毒舌やシニカルな発言が注目されがちな伯山さんだけに、そのストレートな言葉が心に染みました。
一方の沢木さんはデビューからフリーの立場。師匠も弟子もいないわけですが、伯山さんが指摘したのが「沢木さんを旅の師匠だと思っている人」の存在。そして、沢木さんが『深夜特急』の旅に出た年齢にちなんだ「26歳、旅の適齢期」という定説の影響力です。
横で聞いていた私は、ドキッとしました。沢木さんの「26歳説」に影響を受けた一人だからです。大学時代はバックパックを背負って、熱にうかされたように海外を旅していました。そして就職活動の序盤で、「このまま会社に入っても沢木さんの話の通り、26歳で旅に出てしまいそうだな」と思い至って、就活戦線から撤退。思い残すことがないように、大学を休学して半年にわたる一人旅に出たのでした。
そんな私にとって、今回の対談で、沢木さんの最近の旅の話を聞けたのは収穫でした。
例えばマレーシアのお話。Grabというタクシーアプリが普及していて、スマホにホテル名を打ち込むと目の前にタクシーが現れ、現地の人と一言も話すことなくホテルまで着いてしまうのだそう。日本でもタクシーアプリは普及しましたが、問題(?)は、マレーシアの場合、公共交通機関と変わらないくらい安いケースもあるということ。
私自身の旅を振り返っても、身振り手振りで駅員に説明して切符を買ったり、宿にたどり着けなくて町の人に尋ねたりして旅が始まったものですが……。
さらに、沢木さんが乗ったタクシーでは、咳をした運転手が慌てて窓を開けたと言います。アプリで沢木さんからマイナス評価されることを恐れたようなのです。
伯山さんは「それで沢木さんが『2点減点』とかしていたらイメージと違い過ぎるなー」などと言って笑っていましたが(もちろん、沢木さんは評価しなかったそう)、旅行者が「評価する人」になったのでは、自然な会話など期待できません。沢木さんは「旅のスタイルを変えなくてはいけないかも」とまで。
こんなお話もカットしなくてはいけないほど、対談は盛り上がりました。沢木さんが高校時代に1000人の学生を前に落語を披露した話、伯山さん明かしたお座敷でしかできない大人の講談の演目など、話題は縦横無尽に広がりました。月刊文藝春秋の“歳末寄席”、ぜひお楽しみください。
(編集部・三阪)
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