news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは、講談師の神田伯山さんです。44年ぶりに大名跡を復活。講談の申し子が「笑わせる芸」を目指さない理由とは?
伯山さん(左)と有働キャスター(右)
テレビにラジオに引っ張りだこ
有働 伯山さん、ご無沙汰しています。2年前に『news zero』に出演していただいて以来ですね。今回はオンラインで画面越しですが、よろしくお願いします。
伯山 有働さん、ご自宅からですか? 丸メガネが素敵ですね。テレビでは見せないスタイルで。
有働 普段はこんな感じです(笑)。伯山さんがいるところはログハウスみたいですが、もしかしてサウナ?
伯山 家です! ここだけサウナっぽいつくりですけど、俺、サウナに入って話しているとしたら相当アタマおかしいですね(笑)。
有働 ははは(笑)。改めまして、昨年2月に真打昇進、そして松之丞から伯山襲名、おめでとうございます。
伯山 ありがとうございます。
有働 襲名披露興行は、コロナ禍で途中までしかできなかったそうですが、どう受け止めました?
伯山 建前と本音があって。本音としては、よかったと思いました。
有働 エッ。本音が「よかった」なんですね?
伯山 興行は40日間続く予定で、師匠(3代目神田松鯉(しょうり))も一緒に30日ほど出ていただいていましたが、78歳と高齢ですから、最後の方は少し無理をされていたと思います。チケットを買っていただいたお客様には申し訳ないですが、師匠の健康面においては、結果的には良かったというのが本音です。建前では「全部できなくて残念です」と言っている方が好感がもたれるでしょうが(笑)。
有働 ははは。
伯山 それに、コロナ前は仕事が1日3、4件あって、稽古する時間も取れなくなっていました。
有働 テレビにラジオに引っ張りだこですもんね。
伯山 それがコロナ禍で講談の仕事がなくなって。ずっと「囃されたら踊れ」で頑張ってきたつもりですけど、踊るのも疲れたなという時に一息つけた。コロナで亡くなった方もいるので恐縮ですが、自分にとっては稽古時間を取れて、改めて講談が好きだとか、今後やるべきことは何かを整理できました。コロナ禍は悪いことばかりじゃなくて、講談とじっくり向き合える時間になりましたね。
伯山襲名披露興行にて、師匠の神田松鯉(左)、春風亭昇太(右)と
講談界の「長嶋茂雄」を継ぐ
有働 あのう、稽古って1日にどれくらいするんですか。
伯山 コロナ前は本番の高座が稽古みたいになってしまっていました。普通なら事前にさらうんですが、時間がなかったので行きあたりばったりで。お客様は優しいので、喜んでくれていましたが、自分の中ではちょっと違うぞと。
有働 何が違うんでしょう。
伯山 自分がお客だった時に聞きたいと願っていた講談師から徐々に外れていっていました。理想の講談師は、一生懸命稽古して、月に1本は新ネタを披露して、本編に入る前のまくらも計算して、同じネタをかけてもお客さんに「前と全然違うよ、成長しているな」と思っていただけるような存在。講談師としては2、3年、芸を磨くべき時間を講談のPRに使ってしまったという思いがあります。以前の到達点から一歩も進んでない。ずっと足踏みしている感じです。
有働 それは、自分の中でどんな気持ちですか。「しょうがないや」?
伯山 その時期はしょうがないのかなと思っていました。ただ講談界にとって必要な時間なので。そもそもそのメディア進出の時間がなければ「伯山」を復活させることもできなかったでしょうし。
有働 時間が取れたことで、コロナ明けの高座は良くなりそうですか。
伯山 講談の稽古は種まきのようなもので、すぐ高座に反映されるというより、数年後に大きな花が開いたらいいなと思ってやってますね。
有働 襲名に関してもう一つ、伯山という44年間継がれていなかった名跡を継ぐ意味もお伺いしたくて。伯山さんは「長嶋茂雄という名前を継ぐようなものだ」と表現していらっしゃいましたけど。
伯山 はい。その重みを言葉で表現するのは難しいんですが……。僕は6代目ですけど、初代から5代目までと一心同体になる感じですかね。自分だけの名前じゃないので、僕のつける傷は過去の人たちにも傷になるし、逆に誉れもダイレクトに影響が出る。連帯保証人みたいな感じです(笑)。
有働 初代から5代目までみんな凄腕の方だったとか。
伯山 みな、当代一流でハズレがないと言われている講談師です。4代目は亡くなってから追贈ですが。そういう意味では頑張らなきゃいけない。今、3代目の墓守もしています。
有働 墓守も!? 伯山という講談界を代表する名前を継いで、ご自分の意識も変わりましたか。
伯山 どうですかね。でも、かみさんは「初日から伯山になってたね」と言っていましたね。
有働 え~、どういうことだろう。
伯山 言語化できないけど、雰囲気が明らかに松之丞じゃなかったと言っていましたね。そういうのって確かにあるんですよ。僕も先輩たちが真打になっていく後ろ姿を見てきましたけど、もう2つ目の空気じゃない。元服のような儀式、口上だけで人が変わるのかと思うけど、不思議なもので、やっぱり何となく変わるんですよ。
迫力ある話芸で客を引き込む
弟子は自分の鏡
有働 真打になれば、弟子が取れるんですよね?
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