news zeroメインキャスターの有働さんが“時代を作った人たち”の本音に迫る対談企画「有働由美子のマイフェアパーソン」。今回のゲストは、俳優の鈴木保奈美さんです。
鈴木さん(左)と有働さん
「東京ラブストーリー」の頃よりも50代の今がもっと楽しい
有働 あれっ、髪型変えました? インスタグラムを拝見していますが、ショートヘアのイメージのままでした。
鈴木 結べるようになってきて、今撮影中のドラマでもこの「ちょんちょこりん」ヘアでやっています。
有働 ちょんちょこりん(笑)。7年前に『あさイチ』でお目にかかった時は、休みに3人のお嬢さんたちを連れて、田舎暮らしを体験されたというお話をされていましたね。その1番下のお嬢さんも高校を卒業されたとか。
鈴木 そうなんです。
有働 お母さん稼業は一段落した、というところでしょうか。
鈴木 と、思ったんですけど、大学生もコロナ禍の今は家にいるのであまり状況は変わらないですね。全員が家を出ると、生活とともに心境もガラッと変わるんでしょうけど、去年から自粛、自粛で移動が止まってしまったので。今は保留期間みたいな感じかもしれません。
「ちょっとMなんです(笑)」
有働 それもコロナの影響ですね。昨年末に出版された初のエッセイ集『獅子座、A型、丙午。』(中央公論新社)を拝読しまして、一番上のお嬢さんを妊娠した時に「もうここから先、私の人生は『お母さんとしての人生』なのだと思った」というくだりがありましたけど、今は次々にドラマの撮影が進んでいますよね。「よし、ここからは女優としての自分を本格的にやっていくぞ」というギアが入った感じですか。
鈴木 本格的かどうかはわからないですけど、私としては気持ちを新たに、できること、行ける範囲を広げたいなと思っています。
昨年には初のエッセイ集を上梓
有働 結婚して芸能活動を休止される前の20代の頃と、仕事に向かう気持ちは変わりましたか。
鈴木 そうですね。今は仕事が純粋に楽しくて「好きだなぁ。この仕事」と思うし、もっと楽しんでいくためにどうしたらいいか考えています。
有働 若い頃は純粋には楽しめていなかった?
鈴木 難しいところですけど(笑)。20歳でデビューした時はドラマや映画が好きで、「ここに入りたい、これを作っている人たちと一緒に仕事をしたい」という気持ちでこの世界に飛び込んだんです。でも仕事をするうちに、お芝居だけじゃないいろいろな仕事が増えていって、何が1番楽しいのかがよくわからなかった時期がありました。お芝居をするのが楽しいのか、テレビに出てキャーと喜んでもらうのが嬉しいのか、わからなくなったんですね。女優がモデルみたいなことをしたり、バラエティ番組に出たりするのは邪道なんじゃないか、というジレンマもありましたし。
有働 売れるにつれ、お芝居だけじゃなくなっちゃった。
鈴木 今の方がシンプルにお芝居をすることが好きだと思えるし、楽しめていますね。ドラマも映画も毎回難しいし、悩むし、「私にはこれでお金をいただく資格がない」くらいに落ち込むこともよくあります。でも最近は「自分はこうして悩むことも楽しいんだな」と広い視野で見られるようになってきました。ちょっとMなんです(笑)。ドラマや映画の宣伝でバラエティ番組に出たり、取材でお話をしたりすることも、好きな仕事を多くの人に見ていただくために必要だし、楽しんでやっていこうと。色んな方にお会いできることは面白いし、そこで伺ったことがお芝居をするうえで必ず何かしらの糧になる。すべてが自分の1番好きな芝居に結びつくと納得できるようになったんです。やっと自分の中で1本線が通ったというか。
有働 全部受け入れて良しとするのに時間がかかったのですね。
鈴木 私はすごく時間がかかりましたね。その点、今の若い人たちはしっかりしているなと思います。何をやりたいか、そのためには何が必要かという見極めが早いですよね。
有働 私は結婚したり休んだりする時間がないまま途切れずやってきたので、いまだに楽しめていないかも……。一度お仕事を離れてよかったですか?
鈴木 よかったか悪かったかはわかりません。でも今の自分を否定しないためには、よかったと思わないといけない。だから、よかったことにしています。
有働 芸能界から離れていた10年の間に、「戻りたい」と悩んだことはなかったですか。
鈴木 私はあんまり長く先のことを考えないし、子育ても得意じゃなくて、その時その時やらなくちゃいけないことに精一杯でしたね。そんなふうに思う余裕はなかったです。
有働 うーん、潔い! 鈴木保奈美さんというとやっぱり私たちの世代は『東京ラブストーリー』の「カーンチ!」の赤名リカで、新しい時代のかっこいい女を演じたとおりのイメージで。全盛期にスパッと芸能界を辞めて母親業に専念されて「なんだ、この潔い人は!」というイメージ……でいたんですが、ご著書を読ませていただいて初めて、ドタバタしながら生きている方なんだと知りました。
鈴木 そうですよ、はい(笑)。
有働 ドタバタな日常をエッセイにしてもいいと思ったのはきっかけがあったんですか?
鈴木 きっかけというほどの大きな事件はないですが、自分が何かをするのに、外側のイメージに沿ってオブラートに包んできれいにやっていくのって難しいし、そこに注ぐエネルギーがもったいない。これから先の人生を考えると、自分をごまかしながらやっていく時間はもうないなと思ったのかもしれないですね。
素顔は「岡ひろみ」
有働 ありのままでという心境になったのって何歳頃ですか。
鈴木 ここ数年だと思います。
有働 とすると50歳前後。
鈴木 かもしれないですね。
有働 そうですか。素の鈴木保奈美さんって、どんな性格ですか。
鈴木 ちょうど最近、友達とそんな話をしていたんです。たぶん世間の皆様のイメージとしてはお蝶夫人……、『エースをねらえ!』って少女マンガ、ご存じですか?
有働 同世代なので知っています(笑)。
鈴木 お蝶夫人だと思われているけど、実は岡ひろみだね、って。
有働 ど根性キャラ!?
鈴木 はい。お蝶夫人みたいに、ふわ~っとした巻き髪で「ごめんあそばせ」とか言っていそうに思われがちですけど、実際はすごく岡ひろみです。「できない! でもがんばります、コーチ!」みたいな(笑)。
有働 すごく岡ひろみ! じゃあ、どんなお母さんかと言われたら?
鈴木 あんまりお母さんじゃないかもしれないですね。
有働 エッ!?
鈴木 お母さんぽくはしているつもりだけれど、私の方が子どもより幼稚かもしれないです。お母さんというものがよくわからないんですよ。そもそもお母さんというカテゴリーにしなくてもいいじゃない、と最近思いますね。
有働 どういうことですか。
鈴木 産んで食べ物をあげてお世話はしたけれども、母としてやっているとは自分では思わないです。構ってほしいから、こちらから一生懸命ちょっかいは出しますが(笑)。
有働 かわいい(笑)。エッセイにも19年間お弁当を作り続けたお話がありましたし、外から見たら素敵なお母さんですけど、母親というカテゴリーにしなくていいというのはどういうことでしょう。
鈴木 お弁当は自分が作りたいから作っていたし、寝坊しなかったのも自分が焦るのが嫌だから頑張っただけ。子どものために、なんて殊勝な気持ちはなくて、自己満足です。遅刻させたら遅刻させた私に落ち度がある気がするし、風邪を引かせたら風邪を引かせた私が失敗したと思うから、そうさせたくないとか。私は結局、そういう自分本位の考え方でしか回っていなかったような気がします。
親子も一つの人間関係
有働 そんなに正直でいいんですか! 多くのお母さんが、「それを母と呼ぶ」と思っている気がします。じゃあ、「お母さんの言うことを聞きなさい」みたいな教育はしなかった?
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source : 文藝春秋 2021年7月号