時には家族との時間も犠牲にする。苦しい仕事ほど喜びも大きいものだ
ここ伊藤忠本社ビルは、神宮外苑を望む港区・青山の一等地に建っています。完成からもう三十三年が経ちますが、今でも充分きれいですし、私たちにはもったいないくらい立派な建物です。ところが、そろそろ新しいビルに建て替えてもいいのではと言っている人が社内にいるようです。
おそらくわが社の業績が好調であることが背景にあるのでしょう。二〇一二年三月期決算では過去最高となる連結純利益三千五億円を達成して御三家の一角を占め、二〇一三年三月期決算においてもこの地位を維持しています。また、今年六月には三十二年半ぶりに株価が業界二位となりました。
しかし、私は社屋の建て替えには反対しています。昔から本社ビルを建て替えるとその会社が不調になるという不吉なジンクスもある。これはあながち迷信と侮れないところもあるように思うのです。
まず社員が会社は儲かっていると勘違いしてしまう。きっと自分たちの実力を過大に評価し、コスト削減意識も乏しくなるでしょう。
また、社屋が快適すぎると会社から出かけて行かなくなります。私が言う現場とは、お客さんのことです。商社は、お客さんと会ってなんぼの世界ですから、それでは困ります。
例えば、私が長年いた繊維部門なら、生地メーカー、アパレルメーカーや百貨店などの小売りがお客さんです。お客さんと普段からコミュニケーションを取り、用がなくても足を運んでお話をうかがっておく。それがいざという時に役立ちます。パソコンで情報を集めて、頭の中でこねくり回しても、現場を知らなければ商売は取ってくることはできません。
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source : 文藝春秋 2013年12月号