日本を動かすエリートたちの街、東京・霞が関。日々、官公庁を取材する記者たちが官僚の人事情報をどこよりも早くお届けする。
★“剛腕”の後始末
“官邸ポリス”の頂点に君臨する杉田和博官房副長官(昭和41年、警察庁入庁)は、用意周到に松本光弘警察庁長官(58年)と斉藤実警視総監(60年)の体制で東京五輪を迎えるシフトを組んできた。この1月の人事では、栗生俊一前長官(56年)に冷や飯を食わされた面々が要職に復活。官房長時代から5年に及ぶ栗生氏の“圧政”の軌道修正が図られている。
その筆頭が櫻澤健一総括審議官(63年)。彼は栗生官房長(当時)に富山県警本部長から畑違いのヒラ課長である交通局交通規制課長に飛ばされている。大阪府警本部長になった井上一志氏(63年)や会計課長の逢阪貴士氏(平成4年)もまた栗生人事によってラインから外されてきたとされる。
栗生氏は好き嫌いが露骨に人事に出るタイプで、5年前の伊勢志摩サミットを前に、在任わずか4カ月で警備企画課長から異動させられた新美恭生氏(昭和62年)など、伝説は枚挙に暇がない。一方で親しい同期に供応接待が発覚した際には、人事院に捻じ込んで訓戒に収め、勧奨退職の退職金を支給させたこともある。次長在任時には長官の公用車の倍額を超える水素カーを使用。組織の私物化批判もあり、その“剛腕ぶり”は際立っていた。
今回の栗生色の一掃には、昨年1月に後を継いだ松本長官の意向が色濃くにじむ。
栗生氏に冷遇されていた滝澤幹滋氏(平成4年)を会計課長に戻し(現在は総務部長)、まずは組織のカネを握った。6月には政権のイエスマンとされる中村格次長(昭和61年)や大石吉彦警備局長(同)名で、各都道府県警察の警備公安部門の人員増強を指示する通達を出した。
監視対象である極左暴力集団が弱体化するなかでの通達は、政権批判を取り締まる増員要請ではないかとの見方もある。前長官の色を排し、政権への目配りにも気を遣う。松本長官は栗生氏以上の“剛腕”ではないかとの声も上がり始めている。
杉田官房副長官
★秘書官電撃交代の真相
菅義偉首相による政務秘書官の電撃交代から1カ月がたった。「首相官邸が機能していない」との方々からの指摘を受け、菅事務所の新田章文氏から、財務省出身で官房長官秘書官も務めた寺岡光博氏(平成3年、旧大蔵省)へのバトンタッチに追い込まれた。わずか10日ばかりで発案から正式発令にまでこぎつけるバタバタぶり。150日間の長丁場である通常国会を乗り切るための方策だ。
寺岡氏は省庁間の調整、演説や記者会見の草稿づくりまで、幅広い分野を手掛ける。これまで高羽陽秘書官(7年、外務省)、大沢元一秘書官(同、旧大蔵省)らが担当していた分野を統括する立場だ。
政権発足当初から秘書官人事に対して「首相は意見する者よりイエスマンを配置するため、あえて若い年次の秘書官にした」との見方があったが、正鵠を射ていた。
内閣支持率が大幅に下落し、官邸内外から「発信力、調整に問題がある」「首相本人が問題を抱え込みすぎだ」と厳しい声が相次ぐに及び、かねてから秘書官候補として名前のあがっていた寺岡氏に白羽の矢が立った。寺岡氏は財務省主計局で司令塔の役割を担う企画担当主計官を経て、直近は内閣審議官としてデジタル政策を手がけてきた。
就任早々、寺岡氏はコロナ対策などで独自路線を進みがちな西村康稔経済再生担当相(昭和60年、旧通産省)とバトルするなど早速エンジンを全開させている。
とはいえ安倍晋三内閣で今井尚哉氏(57年、旧通産省)が主導したような「経産内閣」が「財務内閣」になるほど、官邸を取り巻く状況は甘くない。「下手すれば財務省は泥船内閣とともに沈む」との観測が霞が関に流れる。
財務省
★国際派エースの持ち味
昨秋から為替市場でじりじりと円高傾向が続いている。
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source : 文藝春秋 2021年3月号