《スペシャル特集》10人が太鼓判。ジャンル別ガイド
子供のころから映画が大好きで、人生の「貴重な時間」(たぶん)の多くを費やしてきた。観る目的はもっぱら気晴らしというか、己の平凡な日常では起こりえないドラマティックな出来事を疑似体験したいがためなので、社会派や難解な作品はできる限り敬遠し、SF、ミステリ、歴史もの、スパイもの、ホラーといった娯楽作品がほとんどだ。
そんな偏りの多い私が、繰り返しDVDで見続けて飽きないのは、『七人の侍』『ジャッカルの日』『インファナルアフェアⅡ』『スリーデイズ』『マトリックス』といったところだが、今回は愛と恐怖が絶妙に絡んだ7作を選んでみた。
まずは『ミザリー』(1990年)。この映画は、とりわけ世界中の人気作家たちを震えあがらせたに違いない。ミザリーという女性を主人公にしたシリーズで知られるベストセラー作家が、冬山のロッジにこもって執筆した後、その原稿を携えて山を下りる途中、車がスリップして横転。気づくと、居心地の良い個人宅のベッドに寝ていた。満身創痍で、特に両足は骨折していた。
小太りで人の良さそうな中年女性が愛情あふれる笑顔でのぞきこみ、アニーと名乗って、こう言った、たまたま事故現場を通りかかったので助け出し、自宅に連れてきた、吹雪で電話線が切れたので病院には通じないが、自分は優秀な看護婦だし、薬もそろっているので心配はいらない。そして付け加えた、私はあなたのナンバーワン・ファンで、ミザリー・シリーズは暗記するほど読み込んでいる、と。
主人公はほっと一安心したのだが……。
熱烈なファンというのは、時に作家が自分の思う方向と違う道へ行くと裏切られたように感じることがあるらしい。ましてこのアニーは、精神のどこかが外れていた。まるで時計がいきなり狂って針がグルグル回るように、今優しいと思うと次は鬼の形相になって暴力までふるう。この落差が凄まじい。彼女は、シリーズ最終回でミザリーを病死させるのは許せない、奇跡の生還の続編を書けと書き直しを強要する。小説の中のミザリーだけが、彼女の愛の対象らしい。
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