ミュージカル映画 歌って笑って泣ける新古典

宮澤 エマ ミュージカル俳優

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《スペシャル特集》10人が太鼓判。ジャンル別ガイド

 米国で過ごした幼稚園の年長の頃から歌やお芝居が大好きで、『サウンド・オブ・ミュージック』や『メリー・ポピンズ』、『アニー』などのクラシカルなミュージカル映画をビデオで何度も繰り返し観ていました。ディズニー映画にも親しんで育った世代です。オススメ作品はたくさんあるのですが、中でも2000年代以降の、私にとって同時代的な作品を中心にピックアップしました。

宮澤エマ氏

 まずは『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)。1957年にブロードウェイで初演、61年に映画化された名作です。私も実際に舞台で演じたことがあります。61年版はもちろん名作中の名作ですが、敢えてスピルバーグ監督の2021年版を取り上げるのはなぜかというと、格差と分断の現代だからこそ、もう一度『ウエスト・サイド』なんです。未だにはびこる階級や人種、性など様々な差別の問題を改めて世に問うた。そこが素晴らしいと思うんです。

 ただ、今の世代はギャングが優雅にバレエを踊るということが理解できないかも知れない。そこで今回の振り付けはオリジナルに敬意を払いつつ、もっとストリート感がある、躍動感がある踊りを取り込んでいます。大作詞家であるスティーブン・ソンドハイムの歌詞についても、リスペクトを持ちながら、見直しがたくさん行われていて、全く違う色味に仕上げています。主人公のマリアも強い意志を持つ現代的なヒロインになっていて、その役作りには女性たちの声が反映されているそうです。古典を今生きる世代に伝え直すことを成し遂げた傑作です。

 ミュージカル映画が下火になっていた頃にもう一度、人気に火を点けたのが、『シカゴ』(02年)と『ムーラン・ルージュ』(01年)。どちらも新しいミュージカル映画のかたちを作り出した作品です。

ニコール・キッドマン ユアン・マクレガー ⒸAFP=時事

 ミュージカルは、舞台だと歌と踊りのパワーが直に観客に伝わるので「登場人物が突然歌い出す」というそもそもの違和感を飛び越えやすいのですが、映画になると客観視する距離が生まれてしまう。観客が現実に戻りやすいという問題をどう飛び越えたかというと、『シカゴ』はすべてが夢の世界だという設定にしたんです。登場人物たちが思い描くなりたい自分や、願望の融合がシームレスで、見ている側が自然と夢の中に入っていける作りが新しかった。天才振付師ボブ・フォッシーの、オリジナリティ溢れるダンススタイルも含めて、ミュージカル好きなら語らずにはいられない作品です。

ニコール・キッドマン ⒸAFP=時事

『ムーラン・ルージュ』も、ミュージカルに対して固定観念や苦手意識がある世代に向けて、彼らが知っているポップソングスで紡ぐという手法でハードルを下げました。時代設定は1899年、ボヘミアンの世界観ですが、あえて現代のポップソングスを取り入れることで、昔の話でも今の感情で観ることができます。マリリン・モンローの『Diamonds Are A Girlʼs Best Friend』やマドンナの『Material Girl』、ビヨンセの『Single Ladies』といった現代のヒット曲のフレーズをニコール・キッドマンが歌う。一方で、物語は身分の違う2人が引かれ合っていくという「ロミオとジュリエット」的な古典的ラブストーリー。それをモダンな楽曲と融合させていく、いわば“ニュークラシック”ですね。

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source : 文藝春秋 2024年12月号

genre : エンタメ 芸能 映画