女優の映画 映画会社が養成した本物の魅力

石井 妙子 ノンフィクション作家

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《スペシャル特集》10人が太鼓判。ジャンル別ガイド

 “映画”で映える女優は近年、日本では残念ながら、少なくなっているように思います。映画産業が盛んだったころ、女優たちは映画会社に所属していました。映画会社が養成も担い、演技力もある魅力的な女優が生まれました。昭和30年代まで、黄金期とも言える時代を支えた、山田五十鈴や田中絹代、高峰秀子、京マチ子、山本富士子……彼女たちはそうやって世に出たのです。

 しかし、東京オリンピックごろから、映画界の衰退が始まりました。各社ともに経営が苦しくなり、撮影所を売却。それを支えていたスタッフたちも、多くが切り捨てられてしまいました。

石井妙子氏 ©文藝春秋

 優秀な女優も作り手も、テレビドラマに集まるようになり、「かわいい」という、アイドル的な感覚で主演が選ばれる風潮も強まっていきます。演技力は二の次でいい、と。

 いまはスマホで配信された作品を見る時代です。しかし映画は、映画館で、大きなスクリーンで見るものです。主演を張るためには、時にアップになっても、観客の視線を惹き付けられないといけない。では、映画館で映える本物の女優は誰なのか。なるべく時代も監督も重ならぬよう、選んでいきたいと思います。

 やはり日活・東宝で活躍した原節子は外せません。中でもお薦めしたいのが『山の音』(1954年)、成瀬巳喜男監督の作品です。彼は「やるせなきお」と異名を取ったように「女性たちのやるせなさを描いたら右に出る者はいない」と評されました。原は結婚生活わずか数年にもかかわらず、夫が外に女性を作ってしまい、夫の両親と暮らしながら、苦悩する主婦を演じます。陰の主人公とも言える義父役の山村聰は東京帝大を出て、新劇を経て映画デビューした名優。夫役で加山雄三の父である上原謙も含め、脇を固める俳優も豪華で、映画に厚みがある。

原節子 ©文藝春秋

 川端康成の原作を映画化したものですが、脚本家・水木洋子の腕が冴えます。恐らく成瀬も水木も小津安二郎が原の主演で撮った『晩春』(1949年)や『麦秋』(1951年)を意識したのでしょう。原といえば小津作品のミューズで、この2作品では、いずれも家族思いの、婚期を逃した美しい娘が、嫁にいく場面で終わっています。しかし、嫁に行った娘はその後どうなるのか。夫との関係を上手く築くことができるのか。その問いに答えた映画であり、小津作品とはまた別の憂いに満ちた女性を原が演じています。

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source : 文藝春秋 2024年12月号

genre : エンタメ 芸能 映画