掘り起こすことが歓迎されない歴史
社会の支配者が変わった時、そこで何が起こるのか――。自由と恋愛と革命の国として語られるフランスの、それは隠したい過去であるのかもしれない。
連合軍のノルマンディ上陸により、ナチスドイツによる占領から解放されたフランスでは歓喜の声に沸く一方、「対ドイツ協力者」に対する制裁が始まった。「ドイツ兵の恋人」だった女性たちは、捕らえられると頭を丸刈りにされ晒し者に。それは野蛮で残酷な性的制裁だった。
ではこの「丸刈りにされた女性」は、その後、どのように生きたのか。興味を抱いた著者は当事者から直接、話を聞きたいと思いフランスに渡る。
だが、調査は予想以上に難航した。当事者はもとより、多くのフランス人にとって、それは恥の歴史だからだ。時にはあからさまに、「なぜ、そんなことを調べるのか」と批判もされた。だが、著者はあらゆる手を尽くして真実に迫ろうとする。フランスやドイツの地方紙に研究目的を書いた広告を載せて証言者を募り、退役軍人の協会やドイツ国防軍事センターに頼み、当事者に自分の思いを書いた手紙を届けてくれるように託した。こうして、ようやく出会えた当事者の証言と資料調査の結果が、著者の前作『丸刈りにされた女たち』(岩波書店)である。
本書はその、いわばスピンオフとも言える一冊。「丸刈り女性」の取材中、著者は偶然、ある写真に出会い、胸を突かれる。そこには「丸刈り女性」と同じように腕を乱暴に掴まれ連行される東洋人の「おじさん」が写っていたからだ。「自分の祖父のように思えた」と著者。ドイツと同盟を結んでいた日本人もまた、フランス人にとっては憎悪の対象であったという事実を写真は如実に物語っていた。
では、この「おじさん」は何者なのか、どんな人生を歩んだ人なのか。著者は再び突き動かされるように、フランスへと真実探求の旅に出たのだった。
「おじさん」が誰なのかは特定できなかったものの、著者は、当時のパリで「敵性」外国人として生きた日本人の、様々な人生に出会う。強制収容所へ送られた芸術家、送られなかった芸術家。街娼に身を落として生き延びた日本人女性、フランス人に拷問された元庭師の男性。皆、フランスに憧れて移り住み、戦争が始まっても、現地に残る道を選んだ日本人だった。
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