「加害者遺族」の贖罪
オウム真理教幹部で、地下鉄サリン事件などを指揮したとして死刑に処せられた井上嘉浩の父の手記をもとに、地方テレビ局の元報道部記者が、ほとんど触れられることのない「加害者遺族」の問題を提起した。
子どもが重大な犯罪に関与したとき、親はどのように「責任」をとればいいのか。井上の場合、この問いが家族に重くのしかかるのは、京都の名門高校時代に麻原彰晃と出会い、社会のことをなにも知らないままカルト教団に入信したからだ。だとしたら、そのとき親にはなにかできたのではないだろうか。
これについての私の答えは、「親はなにもできない」になる。成長というのは親の価値観から決別することだが、とりわけ井上のような早熟な子どもは、この世界には素晴らしいもの(革命、神秘、奇跡)があると信じているのだから、親の助言に従うはずがない。悲劇の原因は、純粋な理想を悪用する教祖と偶然に出会ってしまったことにある。
タイトルからもわかるように、本書では死刑と「国家権力」の関係も論じられている。世界では死刑を廃止する国が増えている一方で、日本は死刑の存続を望む国民があいかわらず圧倒的多数派だ。しかしなぜ、死刑は必要なのか。
かつては凶悪犯罪を抑止するためだといわれたが、死刑廃止国で殺人などの重罪が増えていないことで、いまでは否定されている。そればかりか日本では、「自殺する勇気がない」という理由で死刑を目的とする凶悪犯罪が相次いでいる。
被害者遺族の処罰感情が理由にあげられることもあるが、オウム真理教事件では、死刑執行による事件の風化を懸念する声が遺族からあがった。京アニ事件でも、遺族の一人は「死刑にはなってほしくなかった」「彼が死刑にされてしまったら、なにが残るんかな」とメディアに答えている。
そもそも存置派は、死刑を「極刑」とは考えていない。2008年に、死刑執行を一定期間停止する代わりに、仮釈放のない終身刑の導入が議論されたとき、元法務大臣は「人を一生牢獄につなぐ刑は最も残酷ではないか」と反対した。死は生の苦しみから逃れる「恩寵」なのだ。
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