日本文学ブームの立役者
政治やビジネスから芸術・文化まで、幅広い分野で英語・英語圏が世界への入り口として機能している。
文学の世界も例外ではない。版権は主に英語で売買され、「国際」と冠された文学賞の審査で英訳が用いられることも多い。近年の世界の日本文学ブームも、英語圏を軸に広がった側面が強い。
本書は、戦後に日本の近現代文学が国外でより広く読まれ始めた時代に、作品がどのように英訳され、受け止められたかを丁寧に辿る。
その中心には、翻訳文学の出版で名を築き、優れた英語作家も輩出しながら、米国で不動の地位を確立した出版社/ブランドの存在があった。
クノップフ社は、その知見や人脈を活かし、一握りの日本の作家の存在を米国で定着させてきた。現存の作家では、村上春樹の作品を30年以上出していることで知られるが、近年も注目度の高い日本の作家が他社から実質「移籍」している。
村上作品が80年代の終りに米国で最初に紹介された際には、戦後に英訳された川端康成、谷崎潤一郎、三島由紀夫のいわゆる「ビッグ・スリー」と比較される形で読まれた。これは、当時の英語圏の日本文学像における3人の存在の大きさを物語っている。
戦後、日本文学を英語圏に紹介する上で、ドナルド・キーンやエドワード・サイデンステッカーを初めとする、日本文学研究者・翻訳家が担った役割については広く知られているように思う。一方、作品の選定、編集、普及において、日本駐在経験もあるクノップフの編集長・ハロルド・シュトラウスが果たした役割については、それほど広く知られていないかもしれない。
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