《スペシャル特集》10人が太鼓判。ジャンル別ガイド
『戦争と平和』(1919年)
第二次大戦が戦後に「ナチもの」という一大ジャンルを映画にもたらしたように、第一次大戦は「第一次大戦もの」というジャンルを産みました。しかし、前者は悪が明白で、その分、明朗闊達な(?)戦争ものとなりがちなのに対し、後者には明確な悪がなく、陰々滅々とした展開になるのが常で、フランスのアベル・ガンス監督のこの作品も、その系統に入ります。
空前の数の死者を出した第一次大戦は西欧社会に大きな衝撃を与え、評論家の笠井潔は、そのために探偵小説の黄金時代(連続殺人=大量死の時代!)が招来されたとまで主張するわけですが、大戦終結から間を置かず公開されたこの映画でも、その悲惨さは強調されます。しかし、この映画のすごさは、それが強調されるあまり、反戦ドラマとか社会派映画といった枠組みを自ら突き破ってしまい、ほとんどホラーの領域になっている点にあって、この過剰さはちょっと他に例を見ません。
『ドクトル・マブゼ』(1922年)
第一次大戦に敗北したドイツでは、大戦の悲惨さを嘆くよりも、空前のインフレという目前の危機のほうが大きな問題だったのでしょう。そうした社会不安は、やがてナチス政権を用意することとなるわけですが、そんな不穏な時代感覚を見事にスクリーンに映して見せたのが、フリッツ・ラング監督のこの作品です。マブゼ博士の犯罪は、株価操作や贋金造りなど、悪事のスケールがひと桁違うし、その一方で本人は、催眠術師であり、精神科医に化けて犠牲者を狂い死にに追い込むという、狂気の人です。映画の最後で彼もまた発狂して終わるのですが、その約10年後の『怪人マブゼ博士』において、再び蘇りを果たすという、まさにワイマールドイツにまとわりつく亡霊のような存在であり、いま観ても、その薄気味の悪さは、ひたひたと迫ってきます。
『陽気な巴里っ子』(1926年)
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source : 文藝春秋 2024年12月号