悪名は無名に勝るのか

第35回

清武 英利 ノンフィクション作家

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「文句を言うのなら、飛ばすぞ」。主筆室での面談は1時間半に及んだ

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「大変ですね……」

 高橋由伸の作意のない口調には、こちらを気遣うようなところがあった。14年間も巨人の看板選手であり、松井秀喜が去った後も精神的支柱であり続けた彼は36歳になっていたが、多情多感なところは変わらない。私はうめくように、

「うーん、いろいろあってね」

 と応えるしかなかった。2011年11月10日のことである。彼は契約更改のため巨人球団代表室にやってきたのだが、スポーツ紙の報道を通じて、球団内の不穏な空気を察していたのだろう。

 巨人会長の渡邉恒雄が、了承していたコーチ人事をやり直す、とスポーツ記者の前で宣言してから6日が過ぎていた。

 私は少しずつ決意を固めつつあった。この決断のために、高橋と2人だけのこの場が、巨人代表兼GMとして彼と交渉する最後になるだろう。できれば高橋の契約更改は私の手で済ませておきたい、と思っていた。

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source : 文藝春秋 2024年12月号

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