独裁者の貌

第34回

清武 英利 ノンフィクション作家
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「俺は最後の独裁者なんだ!」。猛烈な勢いでまくしたててきた

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 後になって真実を知り、全身の肌が粟立つような恐怖を覚えたことがある。

 2011年3月11日、マグニチュード9.0の地震に襲われた福島第一原発の事故のことである。そのとき津波に直撃された三陸地方に続き、東日本は放射能汚染で壊滅寸前だった。いくつかの奇跡に救われて、壊滅を免れたのだ。

 当時の日本メディアの報道は福島原発事故について抑制的だった。私は外国メディアの記者たちから耳打ちされて初めて疑いを持った。そして、事故から1年後になって、著名学者や技術者らで構成する「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」の報告書概要を読み、東京の自分たちも世界最悪レベルの事故に巻き込まれようとしていたことをはっきりと認識した。

 ――私も生死、紙一重のところにいたのか!

「無知は罪」という言葉があるが、発表報道を疑わないことは罪だ、と痛切に思った。東日本壊滅の危機と奇跡については、元福井地裁裁判長の樋口英明が著書『私が原発を止めた理由』(旬報社)で分かりやすく解説している。

 かつては地方記者として、あるいは社会部記者として、私も原発問題を懐疑的に取材し、福島第一原発にも足を踏み入れている。だが、いつの間にか、「原発安全神話」を受け入れ、福島原発事故のそのときも、政府発表やそれに基づく日本メディアの報道をうのみにしていた。おのれの不明を強く恥じた。

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source : 文藝春秋 2024年11月号

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