人工心臓の開発に立ち向かった日々

筒井 宣政 東海メディカルプロダクツ会長
ライフ ライフスタイル 医療

「お父さんとお母さんは佳美の誇りだよ」

 今も私の心に刻まれている娘の言葉です。娘の佳美は生まれつき心臓に難病を抱えており、9歳の時に「三尖弁閉鎖症」と診断されました。そして、わずか10年ほどしか生きられないと告げられた。娘は目の前で一生懸命生きている。そんなわけがあるものか――到底受け入れられない事実でした。

 全国各地の病院を飛び回り、「手術は不可能」と断られるたびに、打ちのめされる日々が続きました。そして、夫婦で必死にもがき苦しんだすえに「自分たちで人工心臓を作るしかない」という結論に辿り着いたのです。

原作となった『アトムの心臓』(文春文庫)

 私はもともと樹脂加工の町工場を経営していました。学生時代は柔道一筋で、大学も経済学部の出身。つまり医療については、まったくのど素人です。当時、アメリカの最先端の研究所で開発された人工心臓でも、鼓動は54時間ほどしか継続しなかった。私たち素人が娘を生き永らえさせる人工心臓を作るなど、あまりに無謀な賭けでした。

 ただ、自分の命を差し出してでも、愛する我が娘を救いたい。その一心で、私は勉強と開発の日々に没頭していったのです。

 東京大学の研究会に潜り込み、黒板に書かれた意味の分からない専門用語をノートに書き写す。「昼飯をおごるから」と言って、研究者をつかまえては、恥も外聞もなく「イロハ」の「イ」の質問をぶつけました。

 町工場の片隅には「東海メディカルプロダクツ」を設立し、動物実験を行い、人工心臓の型を製造する「自転公転回転成型機」という巨大な電子レンジのような設備まで独自に作りました。

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source : 文藝春秋 2024年7月号

genre : ライフ ライフスタイル 医療