それが見える人

記者は天国に行けない 第28回

清武 英利 ノンフィクション作家
ニュース メディア スポーツ

なぜ坂本勇人だったのか。苦汁を嘗めたスカウトの目に映ったもの

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 巨漢ぞろいの読売巨人軍のスカウトが10人、眉を寄せ、声を潜めて延々と談じ合っている。その顔は球場や練習場の太陽にあぶられ、これ以上はないというほど黒く焦げているので、ワイシャツがどぎついほど白く映った。

 大きなテレビ画面に、私立光星学院(現・八戸学院光星)高校の坂本勇人(はやと)と、埼玉栄高校の投手・木村文和(ふみかず)のビデオが映し出されていた。

「繰り返しますが、今度の外れ1位は坂本にすべきです」

「そうかな。私は木村だと思いますよ」

 長方形の会議テーブルの真ん中から、私が「鬼瓦」と呼ぶスカウト部長の山下哲治が険しい視線を注いでいる。

 100キロ近い体重を、彼は持て余していた。夜は酒の肴(あて)だけにするという“飲兵衛ダイエット”を思い立つのは少し先のことで、滑舌は悪いものの太い濁声と逞しい背広姿は、スカウトの猛者たちを率いるのに十分な貫禄であった。

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source : 文藝春秋 2024年5月号

genre : ニュース メディア スポーツ