「やるがん」の現場へ

記者は天国に行けない 第23回

清武 英利 ノンフィクション作家
ニュース メディア スポーツ

「夜にちょっと来てくれ」 。球界再編の渦中に渡邉恒雄から呼び出された

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 金目のものは何もないが、宝のように大事にしているものがある。

 例えば、「打撃の神様」と言われた川上哲治・元巨人監督から届いた封書。便箋5枚に激励の言葉や巨人への思いがみなぎっていた。私にとって、それは遺書のようなものだった。9年連続で巨人を日本一に導き、「鬼」とも呼ばれたこの人の手紙には、最後にこうあった。

「成功する為には、一心不乱で事になりきり、やり遂げること、結果にとらわれずやること、仕事にも勝負にも大局に立ち、私情を入れぬことだ」

 それから、赤ヘル黄金期を築いた古葉竹識(こばたけし)・元広島監督のサインボール。母が大ファンだったので、私が彼と面談したときに懇願したのである。しばらくして送られてきたボールは2個あり、元監督のサインに加えて、一つに「清武清子様」、もう一つには「清武武子様」とあった。

「母の名は清子です。上から読んでも下から読んでも同じようなものなんですよ」と私が何度も繰り返したのがたたったのか、元監督は母の名が「清子」だったか、「武子」なのか、わからなくなったらしい。聞き直すのも無粋だと思ってサインボールを2つ書くところが、繊細さを秘めたこの人らしい。優しい人である。

 そして「怪童」と呼ばれた中西太・元阪神監督からもらった「三原ノート」のコピー。豪打で西鉄ライオンズの黄金期を支えた人は、「三原マジック」で有名な三原脩・元西鉄監督の娘婿でもあり、コーチ、監督を務め「名伯楽」としても有名な存在だった。そして、三原マジックの熱心な伝道者でもあった。

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source : 文藝春秋 2023年12月号

genre : ニュース メディア スポーツ