時代の“斥候”

記者は天国に行けない 第20回

清武 英利 ノンフィクション作家
ニュース 政治 メディア

日債銀の債権飛ばしと河井夫妻事件。組織的取材で厚い壁を破る

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 国税庁から入手したリストは5枚あった。

 それは、表題に〈「日債銀」事案リスト(法人リスト)〉とあり、計64社の企業名とそれぞれの会社の売り上げ高、税務申告額、事業内容、資本金などがずらりと掲載されていた。

 その社名を一瞥して、笑い出しそうになった。

「アルファ」「ベータ」「ガンマ」「デルタ」「エプシロン」「マーキュリー」……。まず目に入ったのは、ギリシャ文字やギリシャ神話の神々の名を冠した会社群だ。「エメラルド」「オパール」「サファイア」「ルビー」……。こっちは宝石の名を頂いている。「ブルー」「レッド」「ホワイト」と色にまつわるものもあれば、「ムーン」「マーズ」「ジュピター」「ラピュタ」と星や天体にからむものもある。適当に名付けしたとしか思えなかった。

 私はバブルのころに横行した郵便貯金脱税と借名、仮名口座のことを思い出した。かつての郵貯は窓口のチェックが甘く、脱税マネーの温床だったが、1人1000万円の預入限度額があった。そのため、巨額の脱税資金を分散して隠す必要があり、脱税者は知恵を絞って何十、何百もの借名や仮名口座を作っていた。

 苦労するのはその口座名をひねり出すことらしく、資産家の中には家族や知人だけでなく、「〇〇花子」、「〇〇太郎」、「〇〇次郎」と架空の名前をでっち上げ、とうとう愛犬の名前まで口座名に付けた者がいた。

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source : 文藝春秋 2023年9月号

genre : ニュース 政治 メディア