わたしは告発する

記者は天国に行けない 第17回

清武 英利 ノンフィクション作家
ニュース 社会 企業

孤独な声を手繰り寄せられるか─「一億総発信」時代の戦い方

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 共同通信編集委員の田村文(あや)は今年3月末、11年に及ぶ連載を終えて、本にまとめた。河出書房新社から刊行されたそれは、『いつか君に出会ってほしい本』というタイトルで、「何度でも読み返したい158冊」という副題が付けられている。

 一言で片づければ、それは中学生向けの名作紹介本である。だが、本を開き、田村が連載の始めに「誓ったこと」を知る。そして1人で567回も書き続けた理由を理解し、それが強いられた“社業”とはほど遠いものであることがわかると、文芸記者の矜持と喜びのようなものが、ぐっと胸に迫ってくる。

 連載を始めた2012年ごろ、新聞各社はじりじりと発行部数を減らしていた。新聞業界で小学生を中心にした子ども向けの記事に力を入れようという流れが強まり、全国の地方紙などに記事を配信している共同通信社は、中高生が読みやすい記事も出そうという方針を固めた。

 彼女は文芸記者の道を歩いていたが、当時は文化部で芸能デスクの席にいた。若手、中堅記者の記事を書き直し、指示を与える役回りなのだが、自ら手を挙げてこの連載を提案した。本には読むべき「とき」があり、若いころに豊饒な本に出会えば、それは自分の血となり肉となることを知ってもらいたい、と願った。

 毎日、彼女は終電の時間までデスクワークをし、くたびれて家に帰っていた。外へ取材に出て記事を書く機会がめっきり減っている。しかしまだ46歳だ。自分で記事を書く仕事は続けたい。本を読み、書き続けなければ文芸記者としては終わりだ。会社や同僚に迷惑をかけず、新たな取材をしなくても書く修行はできないものか――。

 それで田村は加盟各社に、毎週、「中学生用の読書案内」を配信する、と説明して退路を断ち、毎週土曜日朝から、日曜日にかけて自宅で本を読み、読み終えると、そのまま記事の執筆にとりかかることにした。自分の中で次のような決め事をしたうえで、14歳か15歳のころの自分を思いながら、『本の世界へようこそ』と題した連載記事を書いた。

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source : 文藝春秋 2023年6月号

genre : ニュース 社会 企業