朝駆けをやめたあとで

記者は天国に行けない 第16回

清武 英利 ノンフィクション作家
ニュース 社会 メディア

ぞっとするような夏だった──。“証券業界の闇”をひとり暴き続ける

1

 駆け出しのころは、来る日も来る日も書いていた。取材した記事が翌朝の新聞に掲載されるのが嬉しくて、夢中で書いた。新聞による権力監視と社会正義の追求を心から信じ、1日に十数人に会った。次から次へと大勢に話を聞いて、頭の芯がぼんやりとしてしまう“人酔い”というものがあることを知った。

 やがて、自分の記事が人を傷つける場合があることに気づき、周囲を見渡せるようになった。「これは書くな」「あの取材はやめておけ」と告げられるようになった。記事をめぐる上司との口論が増えた。

 主任から部次長へと階段を上がると、横やりはさらに増え、少しずつ取材の現場から遠ざかっていった。取材することよりも、現場から出稿されてきた記事を手直しし、取材の指示を与え、管理するのが仕事になった。

 提灯記事や社業関連の「社もの」記事を苦もなく書き上げる先輩、若い記者に説教を垂れるのがいかにも楽しい、という上司の姿がはっきりと見えてきた。先輩の多くはやがて「書かざる大記者」とか、「伝説の記者」と呼ばれるようになった。あれだけ書く訓練を重ね、苦労して取材先を広げたのに、権力監視役にはほど遠い、新聞社に居る「かつて記者だった人」になった。

 そんな記者の転変や変質を見聞きしてきたので、2021年の9月に、東京新聞の社会部長だった杉谷剛(ごう)が、部下なしの編集委員を命じられたとき、私はすぐに会いに行った。その時点で彼は60歳の定年まで2年を切っていた。彼の異動を左遷と呼ぶ者もいて、一声かけたいと思ったのだ。

 杉谷は、今では珍しい突撃型の特ダネ記者で、識者然としたメガネと円満そうな風貌に反して、上司、先輩、取材先とあたり構わず喧嘩してきたので、「ファイター」の異名がある。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
今なら初月298円で楽しめる

  • 今なら、誰でも、この価格!

    1カ月プラン

    キャンペーン価格

    初月は1,200

    298円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • こちらもオススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2023年5月号

genre : ニュース 社会 メディア