密やかな正義

記者は天国に行けない 第13回

清武 英利 ノンフィクション作家
ニュース 社会

水底の石垣のように生きる――外務省機密費流用事件の扉を開いた男

1

「どこにもない情報を求めるなら、国税当局を取材すればいいですよ」。ネットメディアの編集長や週刊誌の辣腕記者たちにそう勧めてきた。

 国税庁は個別事案の発表を拒む役所なので、手つかずの膨大な情報が眠っている。ネットや雑誌記者はもっと腰を据えた発掘が必要ではないですか、と私は彼らに言っているのだが、なかなか容れられない。目指す報道のベクトルが、彼らと私のいた新聞社とでは異なっているし、そもそも記者の数が圧倒的に少ないからである。

 だが、徴税の現場には濾過されていない情報だけでなく、インサイダーにしか見えない光景が広がっている。会議一つをとってもそうだった。

 東京国税局の税務署長会議は、毎年7月の人事異動の後などに開かれていた。これは10年ほど前のことで、コロナ禍のいまではウェブ会議システムやデータのネット配信も導入されているが、当時の署長の前には分厚い極秘資料が配られ、課税第一部(個人部門)、課税第二部(法人部門)、調査部(大企業部門)、査察部(強制調査部門)、徴収部と、部門ごとに丸一日かけた説明が行われていた。

 私がびっくりしたのはその会議の後だった。終了すると、全署長がその内部資料を大型の封筒に収め、机の上に置いたまま退席していた。それは全署員に伝達しなければならない内容なのだが、書類は国税局の担当者によって回収され、各税務署に翌日、「局便」と呼ぶ専門の宅配便によって届けられていた。

取材を受ける水野清元議員(筆者提供)

 複数の元署長によると、それは署長らが帰宅時に電車やタクシーの中で書類を紛失することを恐れたためだったという。税務署長には、警察署長とは違って専用の署長車は用意されていない。国税庁は最大の国家公務員組織で文書数も多いため、公文書の紛失や誤廃棄数がずば抜けて多い役所なのである。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ニュース 社会